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第29話

レイも定時制高校中退という学歴だったし、居所を知られる怖さから頼れる身寄りもなく、最初はかなり苦労をしたようだった。 「だけど、今は幸せだよ。ちゃんと定職にも就けたし、学歴無くても狭い古アパートに住んでても、俺を受け入れて傍にいてくれる奴がいるからな。ああ、今すぐにでも結婚してやりたい。子供もいっぱい作ってあったかい家庭を作りたい」 そんな風にデレながら、スマホの中の彼女の写真を色々見せてくれる。 レイは僕の無事を確認し、沢井のことを報告するという大きな荷物を降ろして、また楽になれたのかもしれない。 仲良さげなツーショットの数々とそれを見せてくれる屈託のないレイの笑顔を見て、我がことのように嬉しくなった。 「シノブはちゃんと心を許し合える相手はいるか?自分の生い立ちや過去を誰にも話せないって、辛いよな」 弟を気遣うようなレイの目を見て、考えた。 「実はね・・・」 逃げ出した後も、男娼やペットをやっていた時の暗い記憶と見つかる恐怖から、色々なトラウマに悩んできたこと。 だけど今は、全部を知った上で丸ごと受け入れてくれる恋人がいて少しずつ良くなってきていること。 今日も僕のことを心配して、店までついて来ていることを打ち明けた。 「レイのことを疑ってたわけじゃないんだけど・・・気を悪くしたらごめん」 「いいや、わかるよ。もう沢井はいないって分かっている俺だって、やっぱり今日ここへ来るのは緊張したんだ。ましてや、シノブは突然俺から連絡が来て、理由も分からず怖かったよな?ごめんな」 「ううん。それで、あの・・・恋人をここに呼んで紹介してもいい?多分、凄く気を揉んでいると思うし、お礼を言いたがっていたから」 勿論だと快諾してくれたので、征治さんにメッセージを送った。 ノックをして入って来た征治さんを見て、レイの目がまた真ん丸になった。 「恋人の征治さん。この人のお陰で僕は生きててよかった、幸せだって思えるようになったんだ」 「そうか・・・そうか・・・よかったな」 また涙ぐむレイは、やっぱりいい兄貴だった。 征治さんにレイから聞いたことをかいつまんで説明すると、ほっと安堵の吐息を洩らし、何度もレイに礼を言った。 交通費を渡そうとしてもレイは「俺が好きでやったことだから要らない」と頑なに拒んだ。だが、やはり征治さんの押しの強さと話術には到底敵わず、最後は受け取ってくれた。そして、僕の耳元で囁いた。 「シノブの彼氏、なんかすげー人だな。だけど、お前ものすごく愛されてんな。あの人の目、見たらわかる」 僕は顔が赤くなるのを感じながら、「うん」と頷いた。 午前中に調達しておいた「東京で買いたい」と言っていた話題の店のスイーツを手渡すと、もの凄く喜んでくれた。きっと彼女へのお土産だったのだろう。 別れ際にレイはこう言った。 「なあ、レイとシノブという名前は今日限りで捨てよう。俺は翔太。島田翔太って言うんだ」 「僕は風見陽向」 「ああ、いい名前だ。これからは名前の通りお天道様の方を向いて生きてけよ」 そういって翔太は一点の曇りもない笑顔を見せた。

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