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第28話
「それに、今回も沢井の事故死のことを知らせるために、僕のことを探し回ってくれてたんでしょ?」
「人の死を喜ぶべきじゃないけど、俺はこのことを知って、やっと自分を縛っていたものから開放されたと思ったんだ。これで、こそこそせずに堂々と生きていける、新たなスタートが切れるって。
俺さ、惚れてる女が居て、もう2年近く同棲してるんだ。俺と同じ歳だし、彼女が結婚したそうにしてるのも、子供が欲しいと思ってるのも分かってたんだけどさ。
戸籍をいじるのが怖かったんだ。俺の場合、アル中の親父に借金のカタに売り飛ばされたから、戸籍をいじるとそこからバレるんじゃないかって。
だけどこれで直接の債権者はもういないと思ったら、これで俺も彼女と幸せになれるって思った。
だけどその前にシノブも開放してやらなきゃと思ってさ。お前はあの家に行く前にもひどい経験をしてたから、少しでも背負ってるもの軽くしてやらないとって。
あと、仮に無事に逃げ切れていたとしても、ちゃんとまともに暮らせてるのか自分の目で確かめたかった。
そうしないと俺がずっと引きずってしまいそうだったから、これは安心したかった俺の自己満足なんだ」
「だけど、実際に動くのってなかなか出来ないことだと思う。僕たちが脱走してから随分経っているんだ。それこそ、もうどこに居るか分からないって片付けるのが普通だよ。それなのに、あんな群馬の山奥まで探しに行ってくれて。
確かに僕たちは寝食だけじゃなく異常な体験まで共にしたけど、一緒に居たのは半年足らずだよ?それなのにここまでしてくれて。
レイ、ありがとう。本当に感謝してる」
レイは照れくさそうに頭を掻いた。
「いや、俺だってシノブに助けられたんだ。お前があの家に来なければ遅かれ早かれ俺は壊れてたと思う。実際その兆しはあったしな。
シノブがあの家に来て、色々弱ってるお前の面倒を見ることで俺も自分を立て直せた。お前が兄貴のように俺を頼りにして純粋に慕ってくれるのが嬉しくて、俺の歪になりかけてた心が補正された。俺はシノブに救われたんだよ」
レイがそんな風に感じていたなんて、僕は全く気付いていなかった。僕はただただレイの親切に甘えていただけの様な気がする。
「それにしても、ほんとに連絡がついてよかったよ。俺もあの群馬の工場の名前がうろ覚えでさ、最初は色々ネットで検索掛ければ見つかるかな、見つかったらまず手紙でも出してとか考えてたんだ。だけど会社が潰れてるとはなぁ。考えてみればあれから随分経ってるんだよな。
だけど、足を運んでみて良かった。こうやってシノブに会えたんだからな。お前がちゃんと無事で、元気そうな姿を見られて、俺も嬉しい。おまけに口まできけるようになってるっていうサプライズ付きだ」
そう言ってレイはまた人懐っこい笑顔を見せた。
ちょうど料理も運ばれてきて、そこからはお互いの脱走後の話や近況報告をしあった。
征治さんが外で心配していると悪いので、レイに断って
『本当にいい話だった。
安心して』
とメッセージを送っておいた。
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