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第27話

「・・・怖くなかったの?」 「怖かったさ。何年も平穏に暮らしていても、やっぱり逃げてきたという意識からはずっと逃れられなかったからな。 だけど、もしこれがあいつだと確認できれば、それから解放されると思ったんだ」 その気持ちは嫌というほど分かった。 「俺があいつについて正確に把握している情報はあまりなかった。ずっと閉じ込められて聞き耳を立てていただけだからな。 社長の後妻の子ってことは知っていても、今でも同じ社長か分からないし、先妻の子が何人いるのか、後妻の子だって何人いるのか知らない。会社に電話して、どうやってあいつだと確認したらいいのか悩んだよ。 結局、あいつの家のかつての近隣住民のふりをすることにした。あの家の場所はネット地図の航空写真で多分これだというのを調べられたからさ。なかなかあんなでかい家、ないだろ? で、『風の噂で聞いたんですが』って感じで掛けてみた。非通知なんて怪しまれるかと思ったけど、電話にでたおばさんは取引先じゃなくてかつてのご近所さんと聞いて気が緩んだのか、単におしゃべりだったのかわからないけど色々教えてくれたよ。 やっぱり沢井義則は俺らを飼っていたあいつだった。高速道路でダンプに追突されて重傷を負って、事故から4日後に死んだんだそうだ」 「そう・・・だったんだ・・・」 ふーっと長い溜息が漏れると同時に、知らずのうちに緊張で固まっていた体からプシューと空気が抜けるように力が抜け、椅子の背凭れにくたりと寄りかかった。 「俺も聞いた時、そんな風に力が抜けて床にへたり込んだよ。これで本当に自由になれたと思った。それからすぐにシノブの事を考えた。 もっとも、お前のことは逃げた後、何度も思い出して後悔してたんだけどさ」 「後悔?」 「ああ。シノブは口がきけないという大きなハンディキャップがあったのに、俺が無茶な脱走計画に乗らせてしまったんじゃないかって。 お前は二人だと目立つから別々に逃げようと提案した。いつも大人しいシノブにしてはそこはやけに強く主張したし、俺も一理あるって賛同した。 だけど、もしかするとお前は自分の方が俺より見つかりやすいって覚悟してたんじゃないかって、後になって気付いた。 お前は口がきけなかったし、ペットパーティに連れ回されて沢山の人に面が割れてる。俺の足手まといにならないように別行動にしようって言ったんじゃないかって」 僕が黙ったまま微笑んでいると 「あー、やっぱりそうだったのか!」 と言いながらレイは頭をガシガシ掻いた。 「もしかしたら、沢井に捕まってしまったかもしれない。どうしてちゃんと群馬の工場まで送り届けてやらなかったんだろうって、何度も後悔した」 「ふふふ、レイはやっぱり優しくて、兄貴気質だね。大丈夫だったよ。ちゃんと工場までたどり着けたし、そこの工場長の酒田さんがとてもいい人で親切にしてもらったんだ。 僕はずっとレイに感謝してたよ。僕一人だったら、あそこから逃げられなかった。レイにはいくらお礼を言っても足りないぐらいだと思ってた」 「そうか・・・それなら良かったよ」 レイは安堵の表情を浮かべた。

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