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第1話
「大介、おじいちゃんも死んだことだし、1人ではここで暮らせないのは分かるよな」
俺は、幼い時に事故で両親を亡くし祖父と17まで2人で一緒に暮らしていたが、その祖父も急性心不全で昨日他界した。
寂しい農村だが、毎日農作業や牛の世話などをして飽きることはなかった。
線香くさい部屋の中で、喪服で駆けつけた叔父が開口一番にそう告げた。
この家は処分する、ということだろう。
そんなに長くはない一生のほとんどを過ごしたこの家から出なくてはならないのだ。
頭に白い布をかけられた祖父が横たわる姿を俺は横目で見やり、こくりと頷いた。
ここから一番近い農業高校に通い、祖父の畑と田んぼと牛の世話をして、ゆくゆくは楽に暮らしていけるように祖父孝行をする気だったのに、こんなに早くいなくなるなんて考えもしなかった。
まだ、俺は何も返せていないというのに。
涙が零れそうになるのを、喉で唾を飲み込んで堪える。
「……まあ、気持ちの整理もしないといけないだろうからすぐにってわけじゃないんだが……」
叔父は俺の表情を読み取ると、ぐっと肩を抱き寄せて背中を撫でてくれる。
血が繋がっている家族は、もうこの叔父だけで他にはいなくなってしまった。
そして、家もなくなってしまうのだ。
「叔父さん。大丈夫ですよ……俺はおじいちゃんがいたから、ここにいただけなんで。近くにアパートでも借りて高校に通えれば……」
「大介、学校も転校してもらいたい」
おもむろに叔父は俺の表情を窺いながら話しを始める。
「叔父さんの家の方に農業高校ありますか」
畑や田んぼもきっと売ってしまうのだとは思うのだけど、祖父から教えてもらった知識をこれからも活かしていきたい。
「農業科はないんだ。普通科しかないが、全寮制の高校だ。農業は大学で学ぶといい。その高校に入って、友達を作ってほしい」
叔父は、俺を見込んで話すことだと言って、その高校について話を始めた。
叔父はいくつかの会社を経営しているが、その高校には取引先の息子や議員の息子などが通っていて取り巻きに入れてもらうことで大きなコネクションができるとのことだった。
「……叔父さん、俺は友達作るのは……そんなに得意じゃないですよ」
「友達までいかなくていいんだ。クラスメイト、くらいでいいから」
必死な様子と、祖父がよく叔父を心配していたなあと思い出し、俺はついつい頷いてしまっていた。
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