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第7話

 気まずい空気が流れている。ギゼさんは直接的には言わなかったけど、そういう感じとは……まぁ、そういうアレだろう。いや、少なくとも俺はツルとの間に友情以外を感じたことはない。ツルが言った言葉も友情的なものかもしれない。いや、たぶんそうだ。俺が変な風に捉えてしまっただけで、きっとそうだ。ツルが焦った表情のまま動きもしないけど、たぶんそうだ。 「いや、まぁ……俺とツルはめっちゃ仲良くなって友達っていうか親友の域まで入ってきてるかもしんないね」 「あ。あー、そっち? なんだよ、俺は恋愛的な意味で仲良くなってんのかと思ったわ」  そう言った俺とギゼさんで仲良くハハハと笑っているのに、ツルがいまだに微動だにしない。空気も気まずいままで回復しない。おい、どうなってんだ。もうそろそろ俺の笑顔が崩れてしまう。その前にツルも笑ってくんねーかな。そうしたら元に戻るから。  そう思っていた俺の願いが届いたのか、下を向いていたツルが顔を上げた。その顔は、いつもの無気力そうな表情に戻っている。それに安心した。 「な、そうだよな。ツル」 「んー、史くんは友情的な感情っすけど、俺は恋愛的な感情っすね。だから半分当たりって感じっすかね」  ツルの言葉に、また俺とギゼさんが固まった。いや、いつもの表情に戻ってたじゃん。なんでもう一回爆弾を放り込んでくるかな。なんなの、開き直ったの? なんで開き直ってんの? それ聞いて戸惑いしかないんだけど、俺どうすればいいの?  ひきつった笑顔のままでいると、俺より早く立ち直ったギゼさんがツルに話しかける。 「んえっとー……マジで?」 「さすがにここで嘘をつく勇気はないっすね」 「まぁ、だよな。あー……そうか」 「引きますよね」 「おぉ。今までの人生で一番のびっくり話だな。え、いつ? けっこう前から?」 「そっすね。けっこう早くからそう思ってましたね」  おいおいおいおい。そういうのは俺がいないときに話せよ。どうすればいいのか分かんねーだろ!   そのまま野郎の恋バナはけっこうな時間続いた。いや、もしかしたら3分も経っていなかったのかもしれないけど、メンタル的には1時間ぐらい続いたように感じた。羞恥で死にたくなるって、こういうことか。  途中から俺だけボーッと外を見ていたけど、ふと気づけばギゼさんが帰ろうとしている。 「まぁ、俺はそろそろ帰るわ」 「いや、ちょっとギゼさん待って。帰る方法教えて」  最後の力を振り絞ってギゼさんの袖を掴めば、俺を見てニヤリと笑った。その表情にゾッとする。嫌な予感しかない。 「俺な、友人二人に頼み事をされたら、付き合いの長い方を優先するようにしてんだわ。だから、今回はツルの頼みを優先する。じゃーな!」  そう言っていい笑顔でギゼさんは帰った。いや、もう……マジかよ。  愕然とした表情でドアを見つめていれば、ツルがこっちに近づいてきた。 「ギゼさんには、両方の世界を行き来する方法を探してもらうようお願いしたっす」 「……おー」 「俺の勝手ですみません。史くんが帰ろうとしてても帰れないのは俺のせいっす。帰る方法を史くんに伝えないようにお願いしました。さっき自身でも言ってたっすけど、あの人はいざというとき付き合いの長い方を優先するんす。俺はそれを知ってて、ギゼさんにお願いしました。すみません、調べる時間を少しください」  ツルはいつもの表情を変えずにそう言った。  思い過ごしかもしれないけど、俺が罪悪感をもたないようにそう言ったんだろう。疲れきっているからか分からないけど、そう言ったツルに何も思わなかった。ツルを嫌う感情は出てこなかった。 「……無茶苦茶だな」 「あー、アレっす。俺へのお返し」 「掃除と洗濯でいいって言ったじゃん」 「あのときとは状況が違うんで」 「無茶苦茶だな」  さっきと同じ言葉を呟けば、ツルは「そっすね」と軽く言った。 「でも、それでも見つからないんじゃねーの?」 「それでも方法が見つからなければ、史くんが帰るときについて行きます」  なんでもないことのように、さらっと言った。ここの世界でずっと生きてきたくせに、何もかも違う世界に行こうとするなんて、どっちがテキトウだ。 「俺べつにツルのこと、そういう意味で好きじゃないんだけど、それでもついてくんの?」  何も分からないツルを置いて俺は俺の生活をするかもしれない。というか、そうすると思う。自分でも最悪だと思うけど、ここの人達みたいに面倒みきれないと思う。そうなったら、ツルは知らない場所で一人ぼっちだ。  じっとツルを見ていたら、今まで見たことないような顔で笑った。なんていうか、さっきのギゼさんの表情と被って見えてしまう。嫌な予感がする。 「なんだかんだ言って、今までずっと一緒にいた俺を、史くんは見捨てれないと思うんすよね」  そう言ったツルはいつもの表情に戻って「とりあえず飯食べましょ」と、何も無かったかのように部屋の奥へ行った。いや、開き直りすぎじゃないか? なんだよ、今の。普通に恐い。  もしかしたらツルは少し危ない性格なのかもしれないとは思いつつ、俺もご飯を食べることにする。今日はいろいろあって疲れたんだ。とにかく食べて寝る。  衝撃告白してきたツルの家で普通に生活する自分の図太さに気づいたのは、いつも通り食べて風呂に入ってツルの隣で寝ようとしたときだった。

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