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第6話

「……そんなテキトウでいいんすか? 帰れるかなんて分からなくて、もしかしたらひどい世界に行くかもしれない。最悪、そこで死んじゃうかもしれないんすよ? それなら、ここで過ごした方が絶対いいっすよ」  ツルの言うことはもっともだと思う。ここは、みんなが俺を助けてくれている。その皆のおかげでここではある程度生きていけるようになった。  でも、それでいいのか考えてしまう。ここの人に対しても、日本にいる人に対しても。 「それは、そうだけど。ここで動かずにじっとしていると罪悪感で潰れそうになる」 「ほんとめんどくさい性格っすね。そもそも罪悪感をもつ必要性があるんすか? 明らかに史くんの意思とは関係ない出来事っすよね? こんなの史くん自身ではどうしようもないんすから、申し訳ない気持ちになる必要がないんすよ」 「そうかもしれないけど、そのあとの行動は俺の意思で決めれることだろ? なのに何もしなかったら家族と友達を見捨てたみたいで嫌だ」 「なんでそうなるんす? ほんと訳分かんないっすね。ていうか、何も考えずに動いたら両親から貰った命を無駄にすることになるんじゃないすか? そっちのが申し訳ないと思うんすけど」 「あ、ツルちゃん。言い過ぎ」  ツルの言った言葉が針みたいに刺さった。  たしかにそうだ。何の確証もない方法を試してみようとする俺の行動は、単なる自己満足だ。罪悪感を理由に動こうとしているだけ。俺は動いたんだから、その結果がどうであろうと仕方がないと言い訳をする為。ただそれだけだ。そんなことの為に命を無駄にするのは、動かないことより罪悪感が大きいだろう。  ……いや、罪悪感の大きさってなんだ。そんな話じゃないだろ。俺が元の世界に帰ろうとするかしないか、それだけの話じゃないのか。なんなんだ、どこで罪悪感をもつかなんてどうでもいいわ! そんなもん俺だけの問題で、誰にも関係ねーよ!  どこでスイッチが入ったのか自分でも分からない。けど気づいたときには、立ち上がって声を張る為に大きく口を開けていた。 「うるっせーよ! 俺は帰るんだよ!」 「うわ、急にぶちギレた」 「結果どうなるか分からねーんだから、やるしかないだろうが! 命が無駄だとか考えてられるか!」 「……だから、その考えがテキトウすぎるんすよ!」 「うわ、こっちもキレたよ」  めっちゃ引いてるギゼさんには悪いけど、ツルも立ち上がって怒りだしたせいで収拾がつかなくなった。ギゼさんもなんとなく合わせて立ち上がっている。  なんでこうなってるのか自分でもよく分からないけど、こうなったらもう、落ち着くまでぶちまけるしかない。だって俺から折れるなんて、今のところありえねーからな! 「テキトウだろうが上手くいけば帰れるんだよ! ここで行かなきゃいつ行くんだよ!」 「なんで行くことが前提なんすか! このままここで暮らせばいいじゃないっすか!」 「あぁ!? 向こうには両親も友達もいるんだ! 大学にも入ったばっかでやりたいこともアホみたいにある! 未練が数えきれないほどあんだよ!」 「はぁ!? なんだそれ! こっちに未練はないんすか!? ここでの生活は、そんなすぐに切り捨てれるもんなんすか!?」 「『すか』ばっかうるせーよ! 切り捨てれねーよ! 未練たっぷりだよ! でも仕方ねーじゃん! どっちかを選ぶしかねーんだよ!」 「だったら両方を選べばいいじゃないっすか!」  ツルが叫んだ言葉に、用意していた言葉をのみこんだ。  話を聞いた瞬間、俺はどちらかを選ぶことにした。両方って選択は考えつかなかった。けどもし、それを選べるんなら俺は迷わずそれを選ぶ。今までの人生も、ここに来てからの生活も……まぁ、最初ここでの生活は恐怖だとか戸惑いしかなかったけど、今は楽しいんだ。 「そんなこと、出来るのか?」  そう言った俺の声は、感情を抑えられず震えてしまっていたかもしれない。  じっとツルを見る。ツルも落ち着きを取り戻したのか、真剣な表情をしている。そういえば、最初モツさんが『ツルは国一番の魔法使い』って言っていた。もしかしたら、ツルには何か考えがあるのかもしれない。魔法でなんでもやるっていう、無茶苦茶な世界だ。こういうときの為の魔法があるのかもしれない。  静かに俺を見ていたツルが、ゆっくりと口を開いた。 「いや、知らないすけど」  あぁ、もう駄目だ。せっかく静まった怒りが際限なく沸いてくる。ここで俺が我慢すれば、このまま静かに話し合いが出来るんだろう。それは分かってる。でも! 「……じゃあ、言うんじゃねーよ! このカス!」 「あぁ!?」 「期待しちゃっただろうが! さっきまで俺にテキトウなこと言うなってほざいてたくせに! お前も大概テキトウなこと言ってんじゃねーか!」 「史くんがテキトウなこと言うからだろ! いいじゃん! もしかしたら方法があるかもしんねーっすから、それ探しましょうよ!」 「ふっざけんな! そんなのいつ帰れるんだよ!」 「はぁ!? さっきから人の言葉分かってねーんすか!? 帰るなって言ってんだろ!」  今日一日ずっと続くと思っていた怒鳴り合いは、ツルの言葉で再び止まった。  俺は驚愕した顔。ツルはやらかしたっていう顔。ギゼさんは、ひきつった顔。そのまま三人共、何秒か固まった。  ギゼさんがゆっくりと口元に手を当てる。その動きを目だけで追っていた俺と、固まったままのツルを交互に見て、えーと……と呟いた。 「……ツルちゃんと史って、いつの間にかそういう感じだったん?」

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