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子供っぽかったかな……
せめてアイスティーとかにすれば良かった……
何だか恥ずかしくなって、身を縮め目を伏せる。
テーブルに置かれた、モカとカルピス。
珈琲の香りが鼻孔を擽り、胸の中いっぱいに広がっていく。
「………」
「………」
会話は途切れたまま。
その空気を変えるかのように、虎がコーヒーカップを持ち上げ小さな音を立てる。
それに合わせ、僕もグラスを持ち口元にストローを近付けた。
……あ、甘い……
コーヒーの香ばしさや苦みが漂う中、僕の舌の上に残る甘味。
鼻から抜ける、乳酸菌特有の匂い。
「………」
そして、とろりとした塊。
「……そういや、それ飲んだ後舌に変な塊残るだろ?」
「えっ、……あ、はい」
「LEONはよ。……ああ、さっきいた派手な女だけどな……
あいつ、人生で一度も残った事ないらしいんだぜ」
LEON、という名前が虎の口から飛び出すと、僕の胸がツキン……と痛む。
「そ、……そうなんですか……」
もしかして……彼女、なのかな……
二人組のファンらしき女性とLEONに近付き、四人で談笑している光景を思い出す。
「………」
カップとソーサーのぶつかる音がして、慌てて僕もコースターに戻した。
……どうしよう……
何か話さなくちゃ……
慣れない場面に、不安と緊張で指先が冷えていく。
その一方で、心臓は胸を突き破る程激しく暴れてしまう。
……どうしよう……
いつも、こういう場面には健太郎が居てくれて……
場を和ませてくれたり、僕の緊張を解してくれたりしてくれて……
テーブルの下で、両手を合わせてぎゅっと握る。
「………これ、やった事あるか?」
虎がテーブル端に置かれたルーレット式おみくじ器に手を伸ばす。
「……え、……い、いえ……」
「やってみるか」
そう言って徐に、虎がポケットから財布を取り出す。
……やった事ないどころか……
これ、……初めて見た……
「……あんた、何座?」
「お、乙女座……です」
「そうか……」
乙女座のコイン投入口をこちらに向けて、球体を僕の前に置く。
そして財布から100円硬貨取り出し、僕に渡してきた。
「ほら」
「……え、あっ、……いえ。そんな……」
「いいから」
受け取らずにいると、虎も引かなかった。
「俺が言い出したんだ」
「………でも」
「どうせこんな昭和の匂いのしたモン、見た事ねぇんだろ?」
「………」
思っていた事を言い当てられ、ドキンッと胸が高鳴ってしまう。
「まぁ、大して面白くもねぇけどな……」
震えてしまう手を伸ばす。
そこに、硬貨を持つ虎の手が近付く。
……触れてもいないのに……ドキドキが止まらない……
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