80 / 81
3
駅前から商店街の方へと少し歩く。
目に映る喫茶店のドアや看板には『準備中』の文字。
その先には、明かりの灯ったこじんまりとしたレストラン。
そこに虎が迷いもなく足を向ける。
「……いらっしゃいませ」
店内は、時代を感じさせる様な家具や装飾品の数々。
照明は落ち着いた雰囲気の電球色。
テーブルの端には、球体型のルーレット式おみくじ器。
見やすく立てられたメニュー表を覗けば、目に付くのはナポリタンとコーヒー。
「……コーヒー飲めるか?」
テーブルにつくなり、虎は畳まれたメニュー表に手を伸ばす。
「……あ、いえ……」
「そうか。……先に聞きゃあ良かったな」
そう呟き、メニュー表を開いて僕に見える様に向ける。
「コーヒー目当てでここ来ちまったから」
確かに虎の言う通り、メニューの半分以上がコーヒーで埋め尽くされている。
こんなにもコーヒーの種類があるなんて……
「今日は随分可愛い子を連れてるわね」
年配の女性店員が、水とおしぼりを持って来る。
虎の知り合い?……馴染みの店、なのかな……
「……あら、あなたあそこのパン屋でバイトしてる子じゃない!」
ふと顔を合わせれば、その人は笑顔で僕に話し掛けてきた。
そして身を寄せ、軽く肩を叩いてくる。
「……え……あっ、は、はい」
「うちのお店で出してるトースト、あなたの所の食パン使ってるのよ!」
「……そう、なんですか……」
「そうなの!……無理言って特別に三枚切りにして貰ってね……」
ぱん、と手を叩き笑顔で話し込む。
「常連さんにはね、ここのバタートーストが一番……」
「……注文いいか?」
話の腰を折る様に虎がそう言い、女性店員に視線を送る。
「モカと……、あんたは?」
「……あ、え……えと、カルピス」
パッと目に付いたソフトドリンクメニューを口にする。
「カルピス、好きなのか」
女性店員が去ると、虎がメニュー表を片づけながらボソリと呟く。
「……え、えっと……」
「俺もガキの頃、よく飲んでたな」
視線を彷徨わせれば、虎が口端を少しだけ上げる。
ともだちにシェアしよう!