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駅前から商店街の方へと少し歩く。 目に映る喫茶店のドアや看板には『準備中』の文字。 その先には、明かりの灯ったこじんまりとしたレストラン。 そこに虎が迷いもなく足を向ける。 「……いらっしゃいませ」 店内は、時代を感じさせる様な家具や装飾品の数々。 照明は落ち着いた雰囲気の電球色。 テーブルの端には、球体型のルーレット式おみくじ器。 見やすく立てられたメニュー表を覗けば、目に付くのはナポリタンとコーヒー。 「……コーヒー飲めるか?」 テーブルにつくなり、虎は畳まれたメニュー表に手を伸ばす。 「……あ、いえ……」 「そうか。……先に聞きゃあ良かったな」 そう呟き、メニュー表を開いて僕に見える様に向ける。 「コーヒー目当てでここ来ちまったから」 確かに虎の言う通り、メニューの半分以上がコーヒーで埋め尽くされている。 こんなにもコーヒーの種類があるなんて…… 「今日は随分可愛い子を連れてるわね」 年配の女性店員が、水とおしぼりを持って来る。 虎の知り合い?……馴染みの店、なのかな…… 「……あら、あなたあそこのパン屋でバイトしてる子じゃない!」 ふと顔を合わせれば、その人は笑顔で僕に話し掛けてきた。 そして身を寄せ、軽く肩を叩いてくる。 「……え……あっ、は、はい」 「うちのお店で出してるトースト、あなたの所の食パン使ってるのよ!」 「……そう、なんですか……」 「そうなの!……無理言って特別に三枚切りにして貰ってね……」 ぱん、と手を叩き笑顔で話し込む。 「常連さんにはね、ここのバタートーストが一番……」 「……注文いいか?」 話の腰を折る様に虎がそう言い、女性店員に視線を送る。 「モカと……、あんたは?」 「……あ、え……えと、カルピス」 パッと目に付いたソフトドリンクメニューを口にする。 「カルピス、好きなのか」 女性店員が去ると、虎がメニュー表を片づけながらボソリと呟く。 「……え、えっと……」 「俺もガキの頃、よく飲んでたな」 視線を彷徨わせれば、虎が口端を少しだけ上げる。

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