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一歩、……また一歩と近付く。
先程よりも人が捌けていき、彼との間に障害が無くなっていく。
……だけど、その度に……どう声を掛けたらいいか解らなくなる……
ギュッと手を握る。
震える足は、確実に彼との間を詰めていく………
「……あっ!」
そんな僕の存在に気付いたのは、ファンと話し込むLEONだった。
「さっき、虎になんかされてた人!」
目の周りは黒く塗られ、カラコンなのか……グリーンとブルーのオッドアイの鋭い瞳がこちらに向けられる。
こんな派手な人と関わった事のない僕は、完全に足が竦んでしまった。
「……虎ァ、何したんだよ!」
「………」
ニヤけながらLEONが防水工の彼……虎をからかった。
「………」
虎が腕組みを少し緩める。
そして流し目をするかのように僕の方をチラリと見た。
「……あ、あの……」
「………」
「この前は……その……」
こんな展開になるなんて、思わなかった……
なんかもっと、違うものを想像していた。
「ねぇ君さァ、虎と知り合いなの?……それともファン?」
相変わらずLEONはニヤニヤとしながら僕に尋ねてくる。
「……もしかしてさ、虎のストーカーとか?」
LEONの台詞に、居合わせた人達がピクリと反応する。
そして同時に、冷ややかな好奇心を孕んだ瞳を一斉にこちらに向けた。
その視線に圧され、半歩、後退る。
「滅多な事言うんじゃねぇよ」
瞳を緩めポケットに手を突っ込んた虎が、LEONをチラリと見てそう吐き捨てる。
そして僕に近付き、目の前に立つ。
「……どした?」
「………」
「コレ片すまで待ってられるか?」
服のせいなのか……
バンドマンだと気付いたからなのか……
あの時感じたものとは少し違う感情が湧き上がってくる。
「……え、あ……えっと」
「いいよ虎。あたしらで片付けるからさァ!」
LEONがニヤニヤしながら大きな声を上げる。
それに虎が反応して振り返る。
「……ふざけんな。二人だけで出来っかよ」
「そういう舐めた事言ってんじゃネーよ!……気ぃ利かしてやってんだろォ?」
LEONに導かれた虎は、返す言葉もなく襟足を掻く。
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