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第5話

「しかし、お貴族様は、こんな平凡な奴のどこが良いのかねぇ」  意識を遠くへ飛ばしていた俺は、暴漢の男の言葉に今の状況を思い出す。  ゆっくりと考えてる場合ではないのである。  着ていた服は、半ば破かれたかの様に床に散らばっているし、俺の身体は男の全体重で完全に動きを封じられていた。 「そう思うなら、離せっ!」  ラインハルトは、一応は俺への好意があって手を出してきているので、俺もほだされかけているが、俺への悪意しかない、いやむしろ無関心と言って良いこいつらに犯されるつもりは一切ない。 「そりゃ出来ないな。金はしっかり貰ってるんでね……っ」  俺の抵抗など、男にとってはあってないようなものらしく、鬱陶しそうに腹に拳がめり込んだ。 「……ぐっ」  胃液がせりあがる感覚に、俺は思わず呻いていた。  にやついた表情をした男の影に、美青年2の顔が見え、俺はそいつをきつく睨んだ。 「は? 何? その生意気な目。言っとくけど、止める気は無いよ。役に立たないゴミの分際でさ、ラインハルト様にアーヴィル王子から求婚されました? 本当頭に来る。神子様にでさえむかついてるのに、お前が相手なんて許せるわけないだろ!?」  端正な顔も、憎悪に歪むとここまで醜くなるのかと言って良いほど、美青年2の顔は歪んでいた。 (伊藤にも不満があるのかよ、こいつ)  伊藤の場合、神子と言う立場があるため、こいつも強く出られないのだろう。  だからこそ、何の役目もない俺であれば、傷つけても良いのだと言う思考回路らしいが、一応は俺も客分である。多分、この国の上層部たちは、俺の扱いに困っているのだろうが、それでも俺が安全かつ裕福な暮らしができているのは、おまけだったとしても、俺も、召喚した存在だからである。だからこそ、俺は微々たるものではあるが敬意を受けているのだ。 「ラインハルト様だって、ちょっとお前が珍しいだけなんだよ。他の奴にまわされたお前を見れば、捨てるに決まってる」  こいつの中では、犯された俺がラインハルトに捨てられるストーリーが出来上がっているらしい。 「離せ!」  下着まではぎ取られ、素っ裸で床に転がされた上、筋肉だるまのような男どもに組み伏せられているこの状況は絵面として最低だ。  れろ、と乳首を舐められた上、甘噛みされて、俺は嫌悪感で身体が震えた。 「肌は白くて綺麗じゃないか。なんだ、ここはお貴族様は開発してくれてないのか?」  男の一人が少し楽しそうに俺の乳首を舌で転がすのを視界の端にとらえて、俺は手足をばたつかせるが、他の男にすぐに押さえつけられてしまった。 「異世界人ってのは非力だよなぁ。ガキでももうちっと力があるぜ」 「この……っ、ん、ふ……っ」  強引に顎を引き寄せられ、唇を奪われる。  必死に唇を閉じるが、男は強引に舌を捻じ込み、舌を絡めてくる。 (ふざけんな! 気持ち悪い……っ!)  俺は素直にそう思った。  ラインハルト相手では、一度も思ったことが無いのにだ。  30年以上生きているのだ。女相手なら当然何度か経験はあったが、男とその手の行為をしたのはラインハルトが初めてだった。  半ば強引に迫られて、今はラインハルトにだけ許してる様な状況なのが遺憾ではあるが、どういった形であれ受け入れてしまっている以上、納得もできないししたくもないが、きっと俺はラインハルトが結構好きなのかもしれない。  始まりは強姦だったが、思えばその時もむかつきはしたが、嫌悪感は無かったのだ。 (美形だからか? だとしたら俺も色々と救えないな。ビッチすぎるだろ)  そう自覚すると、嫌悪感は余計に酷くなる。  足の間に大きな体躯が割り込んでくる。  さわさわと足を撫でられ、俺は唇を噛み締めた。 (くそっ……!)  俺が連れ込まれた部屋まで通路は、この時間誰も通らない。  どんなに大きな声を出したとしても聞こえないし、何より厄介ごとに関わろうとは思わないだろう。  どうせいつものリンチだろうと、たかをくくっていたのが俺の最大の誤算だ。  殴られたり蹴られたりなんて、たいしたことではない。  殺されるわけではないのだから、少し我慢すれば良い事だと、そう思ったのだ。 「お前、アレ持ってんだろ? 貸せ」  俺の足を抱えた男が、興奮気味にそう言う。  散々、俺の事を平凡だと言いながら、奴のズボンは窮屈そうだった。 「ああ? アレ使うのか? 勿体ない。別に無理矢理突っ込んじまえばいいじゃねぇか」 「んなことしたら俺も痛いだろうがっ……! どうせやるなら、最低限楽しみたいだろう」  がちゃがちゃとベルトを外す音が周囲からするのを聞き、俺はぶるりと震えた。  平凡な男である俺が、こんな事をされるなんて予想もしていなかった。  ラインハルトが物好きだったのだと、そう思っていたからだ。  アーヴィル王子の求婚だって、ただの気紛れにすぎないのだと重く考えていなかった。 「おい、咥えろ」  醜く勃ちあがった男根を捧げ持った男が、俺の口元へそれをこすりつけてくる。  ぬめりと、気持ちの悪い感触に、俺はこの世界に来て初めて本気で泣きそうになった。 「嫌だ……っ」  一対一でも勝ち目がないのに、複数の屈強な男が相手なんて、抵抗しても無駄なのは理解している。ただ、どうしても嫌だった。 ――他の奴にまわされたお前を見れば、捨てるに決まってる。  美青年2の言葉を思い出し、柄にもなく少しだけ乙女チックな事を考えるくらいには嫌だった。 (あいつはきっと捨てないだろうけど……っ)  多分、ラインハルトはこの事を知ったら、怒ってくれる。  暴力を振るわれるわ、強姦されるわ、その後も関係を強要されるわと散々な目に遭っている筈なのに、この男たちとラインハルトの違いは何なんだろうか。  無骨な指が、ぬめりを帯びた液体を纏い、俺の秘所へと侵入してくるのを力を込めて阻もうとするが、遠慮のない男の指は止まらない。  強引にこじ開けられ、大量の液体が俺の中を蹂躙する。  びちゃびちゃと言う音が室内に響く。  ズドン、と言う音がしそうな程の力強さで、男の醜いペニスが俺の口の中に突きこまれた。 「うー……ぐ……っ」  髪切ってやろうと睨みつけるが、秘所の指が二本に増やされると同時に脅される。 「噛んだら、後ろに2本同時に突っ込むぞ……っ。別にお前が壊れても、俺たちは構わないからよ」  男たちに優しさは皆無だ。  俺に突っ込んで、ただ欲を吐き出したい、それだけがこいつらの望みなのだろう。 「安心しろって。ガバガバになっても、ちゃーんと発散先は紹介してる。それに、俺たちも具合が良ければまた抱いてやるよ」  じんわりと、指で弄られた所が熱を持つ。  嫌悪感しかないのに、俺のペニスは勃起していた。 (なんで……っ) 「はっ……! 口の締まりは悪くねぇな」  こんな時なのに、反応してしまっている自身に、俺は恐怖し絶望した。  ノーマルだと、関係ないと偉そうな事を言っておいて、現実はこれだと。 「ねぇ、ちょっと。ちんたらしてないで、さっさと犯してくれる?」 「わーってるよ。……んじゃ、そろそろ」  苛ついた様子の美青年2の言葉に、男がぺろりと好色そうに唇を舐めた。  俺の秘所に、生暖かい男のペニスがぴとりと添えられる。 (嫌だっ……!)  口を塞がれている俺は、そう心の中で叫ぶしかなかった。

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