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第4話

 ベッドの中でのラインハルトとの会話を思い出していると、美青年その2が俺の頭を掴み上げた。 「ぐっ……!」  ラインハルトと比べれば、目の前の美青年たちは大分細身ではあるのだが、一番小柄な青年でさえ俺と同じくらいあるので、腕力は俺と同じくらいある。いや、ザ・日本人の俺よりも、きっとこいつらのほうが力があるかもしれない。  いつも、殺さない程度に、俺はこいつらにぼこられるている。  こいつらの嫌な所は、俺を散々痛めつけて苦しめた後、その傷を無かったことの様に魔法で癒して、俺を自室へ戻す一面だ。  ラインハルトに言えば、きっと締め上げてくれるのだろうが、男の沽券として、あいつに泣きつくなんて全体に嫌だった。  だから、基本は耐えている。 (痛いけど、それだけだしな) ただ、そんな風に耐えている俺を見て、そいつらは面白くなかったのだろう。  美青年2が取り巻きの屈強な男たちに命じると、そいつらは俺の服を剥いでいく。  一応抵抗する者の、身長でも頭一つ分違うし、体重は多分30キロ以上違う体格差の前では無力だった。 「大体、お前ラインハルト様以外にも色目を使ったくせに!」  美青年2の俺の頭を掴む手に力が込められ、ぶちぶちと嫌な音が聞こえた。 「くそ、やめろよ! それに、俺は別に色目なんか使ってねーよ」 「うるさい!」  パン、と頬を張られて、床に引き倒される。 (色目なんて使うか、気色悪い!)  あいにく男に色仕掛けをしたことなど、ない。  ラインハルトにだってそんな誘いはかけたことがないのだから。    ただ、この美青年がこんな事を言う理由は、心当たりはあった。  神子と共に旅立つパーティメンバーが、城に収集され、合流後に旅立つ筈だったんだが、このメンバーがとにかく曲者だった。  一週間後、と言っていたのに、既に一週間経過しているにも関わらず、メンバーがまだ揃っていないのである。 パーティメンバーは神子を除き、4名だ。  凄腕として知られる傭兵、ジーク。  神殿騎士、アンヘル。  魔導師協会 支部長、ジェレミア。  エルフ族の王子、アーヴィル。  絵姿で見た時は、選考基準は容姿の端麗さなのかと言いたくなるほど、美形ぞろいだった。  そんな彼らは、めちゃくちゃマイペースらしく、元々城に出入りしているアンヘル以外で、城に到着しているのはアーヴィル王子だけだった。  一応遅れる、とは手紙は届いているらしいが、城での噂によるとジェレミアとジークは、こんな有事なのに娼館で遊んでいるとの事で、開いた口も塞がらないとはこの事だ。  ただ、俺としてはジェレミア、ジークよりも、アーヴィル王子が大の苦手だった。  美青年2から淫売みたいな罵倒を浴びる原因は、アーヴィル王子にあったからだ。  二日前に、城にやって来たアーヴィル王子は、玉座の間で王や神子に形式だけの挨拶をした後、真っすぐに俺の元へと歩いてきた。 (俺はおまけだが、異世界からの存在という事で、割と公式の場には出される。最近はラインハルトの関連でかなり頻繁になっているが)  アーヴィル王子を見た瞬間、ファンタジーのエルフに会えた事で、俺は内心ではテンションが上がっていた。  美しい顔、長いエルフ耳、しなやかだが綺麗に筋肉のついた体躯。  ラインハルトもかなりの美形だが、あちらがやや怖い顔立ちに対して、こちらはもう少し柔らかい印象であり、単純な美しさであれば、アーヴィル王子に軍配が上がる。   (黙っていても女が放っておかない……って、いや、この世界男しかいないんだったわ)  アーヴィル王子に別段興味が無かった俺は、とっとと辞するつもりだったのだが、アーヴィル王子は俺を逃がしてくれなかった。  あろうことかその場に跪き、俺の手を取りキスをしてきたのである。  キスといっても、手の甲ではあったが、恭しく俺の手を取る一連の流れは、物語に出てくる王子様さながらだった。  実際、王子様だったのには驚いた。 「そなたに一目ぼれをした。ぜひ、私の后になってほしい」  魅惑の低温ボイスで口説かれて、俺はその場で固まった。 「初心なのだな。だが、そこが余計に良い」  そう言って微笑みながら俺を抱き寄せようと腕が伸びてきたが、俺は全く反応できなかった。 ぎゅう、と意外と逞しい腕に抱きしめられて硬直していた、そんな俺を正気に戻したのは大臣の一人だった。  ラインハルトに媚びていた大臣である。 「その方は既に売約済みです!」 「……何?」  大臣の言葉にアーヴィル王子が、秀麗な顔に不快そうに皺を刻んだ。 「本当か?」  売約済みって、俺は予約商品じゃないんだよ! 奴隷でもないし! 「俺は売られてないから!」  俺が思わず反論すると、大臣が慌てた様子で俺をなだめ様としてくる。 「こ、言葉の綾です! ですが、ラインハルト様と深い仲であるのは周知の事実ですので!」  城内で俺たちの関係を知らない存在はいない、と大臣は続ける。 「俺は、受け入れてないから!」  一応、俺はラインハルトに伝えてはいるのだ。  無理だ、と。  ただ、ラインハルトはそれを簡単にいなしてくるので、結局はベッドの中で有耶無耶になってしまっている。  本当に俺はどうしてしまったのか、と頭を抱える日々だ。  ただ、俺は既にラインハルドだけで手一杯なのだ。 「……ラ、ラインハルトの事はともかく、俺はその、な。……あんたなら、もっと可愛い奴を嫁に貰えるし、さ」  美少年の伊藤の方が絶対普通はもてる筈だ。  この世界の審美眼が逆であるならば分かるが、美形かどうかはちゃんと皆把握しているので、そのあたりは普通な筈だ。  なのに、アーヴィル王子は全く持って神子である伊藤を見ないのである。  ふと、伊藤と視線があったが、美少年にあるまじき顔で俺を睨んでいて俺はびびった。 「謙虚なのだな。そなたは。そこも好ましい。それに、そなたは充分に愛らしいが?」  伊藤の殺気など気にせず、アーヴィル王子は俺に迫る。  僅かに微笑んだアーヴィル王子に、そっと頬へと手を伸ばされて、俺の顔は真っ赤になった。  結局、その後どんなに否定してもアーヴィル王子の興味が俺からそれる事はなく、玉座の間を出た後も、ずーっと付きまとわれる事になってしまった。  結局、執務が終わって俺を訪ねてきたラインハルトと鉢合わせるまで、アーヴィル王子の口説き文句は延々と俺に降り注いでいた。  その後、二人の男の言い争いが俺の部屋で延々と行われたが、俺は二人の間でただ静かにしていた。  正確には止めようとしたところ、二人ともに睨まれた上、どちらを選ぶのか? と問い詰められてしまい、俺は口をつぐんだのだ。  おそらく、あの場に居た誰かが美青年たちに話したのだろうが、どうやら彼らの中では、俺が二人を弄んでるかのように見えるみたいだった。  自分でも優柔不断だとは思うのだが、俺は元々平凡な男である。  ノーマルだと主張しても、あり得ないくらいの美形に好意的に迫られると、心の奥では悪い気はしないのだろう。  暴力は嫌だが、快楽には弱い、と言うのもある。 (俺、大分精神的にきてる、のか?)  自身が抱える不快な矛盾に、俺は戸惑っていた。

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