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第3話

 ここの所、ずっと腰が痛い。  激痛ではなく鈍痛である。  痛い理由は言わずもがなだ。ラインハルトの奴が、俺にずーっと無理な行為を強いてくるから、こんな事になっているのだ。殴ったりは一切しないのだが、殆ど調教に近いと俺は思っている。      何しろフェラするのも俺は最初本当に嫌だったのだ。ノーマルな男がアレを咥える事なんてあるわけがないのだから、今まで当然経験なんて無かった。なのに、強力な媚薬を口づけで飲まされたあげく、身体を弄られ、射精寸前で塞き止められるのを繰り返すうちに、求められれば普通に咥えるようになっていたのが恐ろしすぎる。  挿入されるときもそうだ。最初はあんなに苦しかったのに、今ではあまり抵抗なく入ってしまうし、突き上げられると普通に気持ちがいい。むしろ、足を絡めるくらいはもう平常運転になってしまった。 「俺は一体どこに行こうとしているんだ」  ノーマルだと主張しても、今の俺は果たしてノーマルなのか疑問だ。  正直、男に無理矢理レイプされるなんて、本当に嫌なら命くらい絶ってもおかしくないレベルの話だと思う。それをすんなり受け入れている俺は、ある意味図太いのだろう。  これが儚い美少年や美青年ならシリアスな暗い話になるのだろうが、残念ながらラインハルトの性の対象が俺の時点で悲壮感はかなり軽減されている。  そして、最近。 ラインハルトが俺に本気だという事が、城に出入りする連中にすべてばれた。  あの日、ベッドの上であいつに気持ちを聞いて、愛の言葉を返されて、俺はあまりの事に固まった上、そのまま気絶するように眠ってしまったのがまずかった。  相当疲れていたのだろう、何と昼までぐっすり眠った俺は、目が覚めた後の光景に固まった。  質素な部屋に眠っていたはずの俺は、豪奢な天涯付きのベッドが置かれた、広い上に金がふんだんに使われた部屋の中に居たからだ。着ている服もシルクのような手触りの衣装に変わっていた。  極めつけに、その日、慌てた俺を部屋に押し止めたのは、長い執事服に身を包んだ壮年の男性と、女性みたいに可愛いメイドさんが二人。  メイド服は大昔の神子がこの世界に広めたらしい。クラシカルメイドではなく、まさかのミニスカメイドだったのは少し驚きだった。  3人は俺の専属として、その日から付きっきりになっている。  後で話を聞いたら、何とこの3人、現在の国王陛下のお気に入りらしい。あ、ちなみに性的な意味ではなく、信頼と言う意味でのお気に入りである。仕事もできるし、人間としてもできている立派な人たちなのは、ここ一週間彼らに世話されている俺が断言できる。  なお、なんでそんなすごい人たちが俺についたかと言うと、当然ラインハルトが原因である。ラインハルトの立場は王族にとっても近いため、彼の大切な人になる俺の待遇が一般的な客人レベルでは示しがつかないのだそうだ。  俺ごときにこんな好待遇は気が引けたが、権力者に逆らう度胸は、俺にはない。  だが、それより何よりこたえたのは、狭い城の中での噂は一瞬で広まっていた事だ。  既に俺は、完全にラインハルトの婚約者扱いされているのだ。  そのラインハルトは、飽きもせず毎日毎日俺の部屋に通ってくる上、花束やら宝石類やら贈り物攻撃を俺にしてくるようになった。花は嫌いじゃないし、宝石も綺麗だとは思うが、限度がある。  女の子じゃない、と言ってもラインハルトは聞いてくれない。  服も贈られるが、俺が似合うとは思えないフリルがついた可愛い服ばかりだ。 「平凡な俺にこんなの似合う訳ない!」  俺がそう怒ると、抱きしめられてキスされてベッドに引きずり込まれて、結局うやむやにされるし、もうやっていられない。  ベッドの中でもずっと、可愛い、愛してる、離したくない、と、ずーっと囁き続けるラインハルトは、お前、俺を最初リンチしたの覚えてるか! と怒鳴りたくなる。  城の中で歩く時はいっつも俺の腰に手を支えているし、段差があるところではお姫様だっこされるし、いやもう本当なんなのか分からなくなってきた。  しかも、俺に無関心だった人たちも、俺がラインハルトとそういう関係にあると知って、あからさまに俺への対応が変わったのも、俺がまいっている理由だ。  おべっかを言ってくる奴らはまだ良い。基本的に媚びてはくるが、俺には危害を加えないし、ラインハルトに対しても彼の権力に全力で媚びているだけの存在だからだ。  向上心とか、ラインハルトに対する対抗心とか、そういう感情は一ミクロンもないのはある意味ですごいと思う。  多分、ラインハルトが失脚でもしない限り、あいつらは人畜無害だ。  そう、厄介なのは他に居るのだ。  一つは、ラインハルトの過去の男たちである。  一体お前はどれだけの相手と寝たんだよ、と言うくらいの数が、まぁ出るわ出るわ。そいつらと城で会うたび、俺はもう嫌がらせの数々を受けているのだのだが、やり方が陰湿すぎて、精神的に参りそうだった。あの以前俺に言ってきた男なんて全然可愛いものである。所詮は口だけだったのだから。  それでも、何とか彼らから逃げていたのだが、終に今日は逃げられないのだと悟った。  秀麗な顔を歪めながら、くすくすと俺を見下ろす美青年たちに対して、俺は睨む事しかできなかった。 「身の程をわきまえてよね。」  どこの三問芝居なんだ、と言いたくなるような台詞をリーダー格の青年が言う。 「だから、俺は別に!」 「嘘つけ! じゃあなんでラインハルト様があんなにあんたに夢中な訳さ! 普通のやり方であの人を陥落できるわけないよ」 「ぐっ……!」  俺としては別に、俺からラインハルトを口説いた訳でもないし、ラインハルトが俺に執着する理由が俺にはさっぱり分からない。だが、ラインハルトが既に俺以外のその手の男を殆ど無視しているのは事実だった。何せ、最初取り巻いていたはずの神子である伊藤とも、一切会話をしなくなったからだ。  最近伊藤の俺への態度が余計に冷たかったのは、どうもラインハルトの気持ちが俺に傾いていたかららしい。  しかも、何とラインハルトの奴、伊藤の名前を憶えていなかったのだ。 「伊藤は良いのかよ」  別に嫉妬した訳ではなく、あんなに取り巻いていたのに何で離れたのか疑問で、ある日のいつもの行為の後、俺が聞いてみたところ、ラインハルトは不思議そうな顔で首を傾げたのだ。 「誰だ、そいつは」  冗談でもなく、至極真面目な顔で奴は言った。 「神子の名前だよ! お前、あいつが気に入っていたんじゃないのか!」 「神子だから価値があった。顔もまぁ、良かったしな。本性は最悪だが、遊びで口説くのは良いか、と思って近づいた。それに、どうせ神子は元の世界に帰るからな、そうすれば後々もめないだろう?」 「クズすぎるだろ、お前!」  そんな会話をした翌日、伊藤とラインハルトが一緒の所に俺が通りかかったのだが、その時の光景でのラインハルトはとても冷たかったのを思い出す。  氷のような冷たい態度かつ、無言で伊藤を鬱陶しそうに振り払うのを見て、俺は少し戦慄したものだ。ただ、今思い返せば、元々ラインハルトは、他の取り巻きと違って、伊藤とは距離を置いていたのかも知れない。  良く考えてみても、だ。  ぶっちゃけて、ラインハルトが俺なんかに夢中な心当たりは、俺とのセックスくらいしかないのだが……。  けれど、俺とのセックスにはまったったんじゃね? とラインハルトの過去の男に言う度胸は俺にはないし、俺にだって恥じらいはあった。

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