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第2話
この世界に来て、おまけなんて禄でもないと心の底から思うのは、この男と居る時だ。
俺はノーマルだ。
男になんて全く興味が無かった、それは嘘偽りない事実だった。
今でも男は基本的にそういった対象では見ていないのだが、ただ、この男だけは事情が違った。
「ん……っ」
与えられた質素な俺の部屋のベッドで、俺は男に奉仕している。
男根に舌を這わせ舐め挙げたり、先端を吸い上げたり、必死にだ。
「上手くなったではないか……っ」
俺の髪を梳く手は優しいが、この男が優しい男ではない事は分かり切った話しだ。
以前、第一王子と親し気に話したことが気に入らなかった伊藤は、自身の取り巻きたちに命令して俺をリンチした。その一人がこいつである。ラインハルトと呼ばれる公爵家の長男らしい。
その時はただの暴力であり、顔には決して痕はつけず、傍目には分からない場所にのみ傷が残ったものだった。
伊藤としては俺に身の程をわきまえろと言いたかったのだろう。
俺は、我慢すれば終わると思い、リンチを受け入れたのだが、その痛めつけられる姿は、ラインハルトの性癖を刺激してしまったらしい。
その日の夜。
俺は、部屋にやってきたラインハルトに、無理矢理犯された。
抵抗はしたけれど、そもそも体格が違った。
ラインハルトはこの世界ではそこまで筋骨隆々ではないが、俺に比べたら逞しく力も強い。しかも、魔法を使われ動きを封じられれば、抵抗も出来なかった。
せめて罵ろうと口を開いたら、深くキスされて、舌を入れられ嬲られた。
相当手馴れているラインハルトの手で、俺は淫らに変えられていき、最初は嫌だと叫んでいたのに、気づいたら自分から舌を絡めて、ラインハルトを抱き寄せるまでになっていた。
長く嬲られ、何度も体内に射精されて、俺は泣きながら懇願するように変わってしまった。
それから、ずっとこの関係は続いている。
「出すぞ……っ」
低く唸る声と同時に、大きすぎて口に入れるのも一苦労な男根から、精液が俺の口に注がれて、俺は咳き込んだ。
口の端から精液が垂れるのを、俺は手で拭う。
男になんて興味のない俺だが、快楽には弱いのも男故なのかもしれない。
意外と男が俺に無体を強いないのも、俺が渋々でも受け入れた理由だ。
最初こそ無理矢理な上、性急だったが、2回目からはかなり時間をかけて俺の身体を開くようになった。
俺が抵抗しなくなったのも影響はあるだろう。
抵抗しても魔法を使われれば何もできないし、抵抗すればするほど、執拗に責めてくることが分かったので、俺は基本ラインハルトに従っていた。
殴ってくることは無いのだが、頭がおかしくなりそうな快感を植え付けてくるその行為に俺は諦める事にしたのだ。
しかも、最近は終わった後、俺の部屋で朝まで眠っていく。
「……っ、ん。あ、んた、今日も泊っていくの?」
5回中に出された後。荒い息を整えながら、俺はベッドの上でそう尋ねた。
ラインハルトは男根を俺の中に挿入したまま、横から俺を抱き寄せている。
俺の黒髪をかき上げながら、俺の額に口づけてくる。
「私の自由だ」
「そ、う」
俺は苦い顔でそう言った。
この世界は、おまけである俺と言う存在に対して基本的に興味が薄い者が多い。伊藤に命じられたから俺をリンチした奴らも、元々は別段俺に対して悪感情を持っていた訳ではない。ラインハルトもそうだっただろう。
と言うか伊藤が好きだった筈だ。
なのに、気づけばこうなってしまった。
「んぅ、っ、ラインハル、ト」
「もう夜も遅い。寝ろ」
ゆっくりと男根が俺の中から抜けていき、俺の体の向きが変わる。
正面からラインハルトと抱き合う形だ。
俺の身体に回された手は、がっしりとそのままだ。
片腕で毛布を俺の身体にかけると、自身は目を閉じて、それっきり黙ってしまう。
視線が合わないのを良いことに、俺はラインハルトの顔をじっと見つめた。
鋭利な印象を与える冷たい美貌の持ち主だ。
輝くような金色の髪に、今は目を閉じていて見えないが真紅の瞳をしている。
背も190センチ以上はあるし、体躯だって筋肉がしっかりとついた身体つきだ。
腹筋は6つに割れているし、見比べてみれば俺の腕と太さが全然違った。これで魔術師なのだから、驚きである。まぁ、後で聞いたら剣の腕も相当なものらしい。
しかも公爵家の跡取りだ。公爵と言えば王家に近い位の家であり、この男はおそらく相当もてるだろう。
正直、より取り見取りだろうに、ラインハルトは俺を初めて抱いてから、一日たりとも欠かさず俺の部屋に通っている。
最初は、昼間にでも恋人や愛人と会っているのだろうと思っていたのだが、公務がとてつもなく忙しいらしく、俺の部屋に居ない時は、風呂とトイレ以外、ずっと執務室にいるらしいのだ。つまり、自分のお屋敷機とお城(正確には俺の部屋)の往復しかしていない。
極めつけに、ラインハルトが過去に付き合っていた男から、中庭で張り倒されたのである。
―俺とも遊んでくださっていたのに、お前なんかが独り占めするなんて!
半ば泣き叫びながら言われて、俺は唖然とした。
執着はされているとは思っていた。ただ、それは珍しい玩具とか、たまたまラインハルトのS心を俺が刺激した結果だと思っていたのだ。
俺は目立たない様に被っていた猫を捨てて、その元彼に掴みかかる勢いで、話を聞いていた。
結果。ラインハルトは俺に本気らしいという事が分かった。
俺を抱いた翌日、関係があった人間すべてを切ったらしく、正真正銘今は俺だけを抱いているのだと、その元彼は涙ながらに語った。
噂では妻に迎える準備をしていると聞いて、俺を罵りに来たらしい。
(俺、元の世界に帰るし。それに俺あいつの事別に、好きじゃないし。俺が受け入れてるのはひどい事されないようにだし)
こんな平凡な男、ラインハルトは何処が良いのか、本当に残念な奴である。
いや、無理矢理関係を迫る時点で度し難いクズなのは間違いない。
なのに、一途に思われていると聞くと悪い気がしないのは何故なのか。
良くあるエロ漫画とかで、きもいデブとかに無理矢理されて受け入れてしまう女性が居るが、俺もそれと似たような状況なのだろうか。
快楽堕ち。あながち否定できない。だって、行為自体は確かに気持ち良いものだったからだ。ただ、おそらく外見も大きいだろうな、とは思う。
ラインハルト程の容姿の人間から迫られると言うのはステータスとしては、かなりのものだろうから。
でも、たぶん一番は、ラインハルトが俺に激甘だから、だろう。
「あんた、俺が好きなのか?」
思わず、ぽつり、と俺は声に出していた。
眠ってしまったのだとそう思って。
でも。
「愛してる」
静かな言葉と共に、ラインハルドの真剣な真紅の眼差しが俺をじっと見ていた。
近づいてくる唇を俺は避ける事が出来なかった。
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