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Ⅱ マジで恋するお兄様①
「兄さんっ、なにやってるんですかっ」
「お兄様だ」
「そこ。今、こだわるところじゃない」
「お兄様だよ。郁巳 」
そっと頬を包まれて、視線を持ち上げられる。
「礼儀はきちんとしないとね。お兄様とお呼び」
藍色を深淵に溶かした黒瞳が、静かに俺を捕らえている。
「………お兄様」
「いい子だ」
わッ!
腕を引っ張られて、バランスを崩した体を広い胸に抱き止められた。
「私の郁巳、会いたかったよ」
微熱色の声が髪を撫でる。
「お前に会えなくて、不安が募るばかりだった」
それは、こっちのセリフだー!
「……なんで、あの中にいたんですか」
一条 尊斗
俺の兄で10歳年上のアラサー。独身。
好きなものは、俺と俺と俺!
自信をもって言える。
兄は俺を溺愛してきる。
過保護すぎる過保護だ。
「郁巳は昔から、うさちゃんが大好きだったろう。お前を喜ばせたくてね」
ポンポンっ
大きな掌が頭を叩いて、ほぅっと甘い溜め息をついた。
「うさちゃんのしっぽみたいに、柔らかくて、ふわふわの毛並みだね。可愛いよ」
……毛並みじゃなくって、髪の毛です~
「兄さんっ」
「お兄様」
~~~
「……お兄様。俺はうさぎの中から、死にかけのお兄様が出てきても、喜びません!」
「サプライズだよ。お前を驚かせたくってね」
命懸けのサプライズだなッ
「どうして、うさぎの中に入ってたんですか?」
「ピザの宅配だ」
そう言えば、死にかけのうさぎが俺の足掴んで……そんなダイイング・メッセージを残していたな。
「お兄様は、ピザのデリバリーを始めたんですか?」
「お前だけのピザ屋だよ」
チュッ
額にキスされても、なんの感慨も湧かない。
話の通じない兄だ。
「俺、ピザ頼んでませんけど」
「私の友人が、地元でピザ屋を開業してね。
せっかくだから、お前にも食べてもらおうと思って持ってきたんだ」
「うさぎの格好で~ッ」
「うさちゃん、好きだろ」
好きだけどっ
「いま何月だと思ってるんですかッ」
「7月だね」
「7月ですよ、7月!梅雨が明けて、真夏がやって来たんです!
30℃越えてるんですから!」
朝 8時過ぎだといっても、日本列島は猛暑なのだ。
ここ、滋賀県も例外ではない。
「まったく。なんのために琵琶湖があるんだろうね?琵琶湖の水の蒸発の気化熱が、気温を2、3℃下げるって?
ひどい話だ。普通に暑い。琵琶湖は、大きいだけの役立たずだね」
「わーッ」
滋賀県民が心の中で思ってる事、口に出しちゃダメ!
「真夏に着ぐるみ着て~。もう少しで、死ぬところだったんですよ!」
「私の心配をしてくれるんだね。嬉しいよ、郁巳」
「熱中症の心配です。倒れたんですからね!」
「次着るときは、ちゃんと首を氷で冷やすよ」
反省しとらんな、この兄は。
「もう着ないでください!」
……ん?そういえば、地元のピザ屋が開店って言ってたな。
大学に入学してから、俺は滋賀県に住んでいる。
兄も俺も、地元は熊本だ。
「まさか、熊本からピザ持ってきたんですかっ」
ピザ、冷え冷えのカッチカチだぞ。
「ピザは市内で買ったよ。チェーン店だから、味はどこでも同じだ」
つまり、俺に会いに来る口実が欲しかったんだね。
愛されてるな~、俺♠
「お前にプレゼントがあるよ」
プレゼント?俺に?
なんだろう。今日は誕生日でもないし、特に何かの記念日という訳でもない。
「誕生日の前祝いだ」
……誕生日プレゼントって言うと、来月会いに来る理由がなくなっちゃうもんね。
愛されてるな~、俺~★
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