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Ⅴ この手をずっと握ろう③

「お待たせいたしました。ブルーベリーチーズと、ツナカレーです」 注文のクレープを、木の下で待つお客様に手渡した。 ドロップを溶かした朱色の斜光が、網膜を射した。 ジィージィージィー 蝉が鳴いている。 太陽が西に傾いたが、暑さは衰えない。 猛暑のせいか、口当たりのさっぱりした冷たい物の売れ行きがいいようだ。 今のでブルーベリーチーズが最後だから、お客さんの注文、気をつけないと。 「……おーい、イク」 「どうしたんだ?」 「俺達、休憩だって。森野先輩が、せっかくだからほかのブースや出店まわってきたら……って」 「ほんと?じゃ、お兄様も一緒に……」 「その前に……イク」 「イクミ」 「ウヒャアー」 口の中が甘ーい。ひんやりするー。 美味しい食感が、みるみる広がる。 なんだ、なんだ? 「マンゴープリンと」 「苺ミルク」 あ、食べたいなー……って思ってたやつ。 休憩になったら食べてみよ……でも、どちらにしようか迷ってて…… 「二つを合体させて」 「マンゴープリン苺ミルクだ!」 メニューに視線を止めていたのを、ヘンゼルとグレーテル、気づいてくれてたんだ。 「イクミ★スペシャル クレープだぞ」 「焼いている間に、二人で考えたんだ」 「イク」 「イクミ……せーの♪」 「「1ヶ月前誕生日、おめでとう!!」」 「ありがとう!ヘンゼル、グレーテル」 美味しい。 二人の気持ちがこもってて、幸せだ♪ ……あ、でも。 「お前達は食べなくていいの?クレープ……」 「俺達は、イク……」 「イクミからもらうよ」 「わっ」 突然、クレープを取り上げられてしまった。 ピチャ ペチャ 冷たいクレープが、右頬と左頬に触れて、押しつけられて…… 「「いただきまーす!」」 「ワァっ」 ヘンゼルとグレーテルに、頬っぺたについたクリーム舐められたー★ 「あまい♪」 「美味しい♪」 「ビックリしたじゃないかーっ!」 アハハハハー こいつらといると笑いが絶えない。 楽しいな♪ 「イク、まだクリームついてるぞ」 「フワっ」 唇の端っこ、苺ジャムのついたホイップをヘンゼルの舌がペロリと舐めた。 「あっ、ヘンゼル!イクミの左側半分は、俺のテリトリーだろ」 「早い者勝ちだ」 「ズルい!」 プゥーっと、グレーテルが拗ねてしまう。 ハハハハハー 楽しいな♪やっぱり♪ 「俺、お兄様迎えに行ってくるから。ちょっと待ってて」 「分かった」 「急がなくていいからな」 「うん」 そうだ。お兄様にも、クレープを持っていってあげよう。 俺が売り子さんしている間、ずっと待っててくれたんだから。差し入れくらいしたいな。 お兄様の好きなのは、チョコバナナだ。 「お兄様ー!」 やっぱり待っててくれた。 あそこの木陰のベンチだ。 「これ、お兄様の好きなチョコバナナっ」 「私に買ってきてくれたのか。お前は兄思いだね」 にこり お兄様が微笑んだ。

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