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Ⅴ この手をずっと握ろう⑥

雨がやまない。 シャアァァァァァー 雨音のノイズが打ちつける。 視界が灰を落とした白で煙っている。 「ヘンゼルゥゥーッ!!」 声が、鋭利な刃のように。喉を掻き切る。 「来るなッ!!」 俺を止めたのは、グレーテルの声 手を掴むお兄様の凍えた体温 「感電の危険がある。俺に任せて、イクミはッ」 「でもッ」 「ミコトさんッ!」 走り寄ろうとする俺の体を、お兄様が羽交い締めにする。 「郁巳!お前はなにがしたいんだッ」 「お兄様っ」 「泣くだけなら誰にでもできる。お前はそれでいいのかッ」 「でもっ、ヘンゼルがッ!」 「お前はエンジニアだろう!」 心臓が……大声で()いた。 「俺は………ヘンゼルの………」 「ヘンゼルを救えるのは、お前だけだ」 ヘンゼルは、俺を守ってくれた。 ここにいる俺達みんなを守ってくれたんだ。 今度は、俺が……… 「俺にしか………」 俺にしかできない。 「守れない」 俺は、お前を……… お前を……… 「ヘンゼルを守りたい」 俺がヘンゼルを救うんだ。 「グレーテル、ヘンゼルを運んでくれ。第1棟だ」 第3棟じゃダメだ。 あそこの設備では心もとない。 第1棟がいい。 「お兄様、第一助手をお願いします」 「分かったよ」 人波を掻き分けて、雨を蹴って駆け出した。 俺しかできない事をやるんだ。 ヘンゼル、俺を信じてくれ。

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