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Ⅷ ヒミツのお兄様②
潮の薫りがくすぐった。
入江の先端に、ひょこんと飛び出て、それはある。
漁村の中で、一際目立つ白く高い三角屋根の建物だ。
遠くから見ると、まるで海に浮かんでいるみたいに異質なのに。
集落を歩いてみると、なぜか妙に溶け込んでいるから不思議だ。
潮の薫りのする教会
崎津教会は、小さな漁村の中にひっそりたたずんでいる。
「夏休みになると、お兄様と来たんだ。だから、どうしても。ここ、歩きたくなって」
狭い路地を抜けると、現れる不思議な教会
「イクの思い出の場所に来られて嬉しい」
「小さい頃のイクミの思い出が詰まってるんだな」
「うん。大好きな場所なんだ」
陽光を浴びたステンドグラスが、歌っているみたいだ。
フゥゥーと息を吐いて。
俺は、教会の中の厳かな空気を吸い込んだ。と……
ヘンゼルの人指し指と、
グレーテルの人指し指。
しっと、俺の唇に二本の指が当てられている。
二人がそれぞれ俺の手を取り、左右に跪いた。
「俺、ヘンゼルは病める時も健やかなる時も、一条郁巳を守り、愛し抜くと誓います」
「俺、グレーテルは富める時も貧しき時も、一条郁巳を慈しみ、愛し抜くと誓います」
右手の甲に、ヘンゼルが口づけを落とした。
左手の甲に、グレーテルが口づけを落とす。
まるで騎士のように優雅な二人の宣誓の言葉が熱くて、胸がドキドキする。
頬が火照って、耳まで真っ赤になってしまう。
碧眼と灰銀の眼が、同時に俺を見上げた。
……そっか。俺の番だ。
俺も誓わないと……
…………………………結婚式みたい。
俺、一条郁巳は…………
「一条尊斗をお兄様として敬い、慕い、愛し、世界で一番幸せになると誓います」
えっ、えっ、えェェェーッ??!
「……誓いの口づけだよ」
チュウゥ~♥
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