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第4話
◇◇◇
数日前────
───尊大な新入りを可愛がって躾け直してやるつもりが、あっさり返り討ちに遭って逆に襲われた日。
文字通り精も根も尽き果てぐったりしていた俺を、あの食えなさすぎる転入生はわざわざタオル片手に労っていた。
そんなとこ自分でやるからほっとけとその手を振り払う余力もなく、ただ為すがままになっていると。
「今日ヤッてみて分かったんだけど、お前本当は可愛い奴だよな」
「おぞましいことを言うな」
信が邪気のない普通の笑顔でそんな風に言ってきたので、億劫だったがさすがに口を開いた。何をほざいてるんだこいつは、と青筋をたてつつ。
激しく顔をしかめる俺のことは気にも留めずに、信は飄々と続けてきた。
「だから、我が強すぎるだけなんだよ。ワンマン政治は確かにお前に向いてるかもしんねーけど、それが他人の反感を買ってしんどい時もあんだろ」
「……うっせぇ」
平然と犯罪行為を行うような思慮の足らない人間かと思えば、そうでもないらしい。会って二時間ほどしか経っていないにも関わらず、かなり痛いところを突いてくるこの男は再度苦手だと思った。
「上手くいかないときは、金と権力に物言わせた方が早えって思うかもしんねーけど。
独裁国家じゃあ民衆の心は離れていくばっかじゃねえか?
水森とかいう───特定のヤツにだけ甘い顔してたらなおさら、周りの鬱憤は溜まっていくだろう。
ボイコットでもされるかもしんねえな」
俺は黙って聞いていたが、実はすでに校内の一部では信の言ったままの風潮になりつつあった。
俺が生徒会長に就任する前から反生徒会を掲げる集団がいたのだが、俺が蘭にかまけている間にかつてないほど勢力を拡大したと親衛隊から伝えられた。
「昴流、テメェ玉座から蹴落とされて、更に皆から嫌われたいのか?」
そんな目標持つ馬鹿いねーよ、と幼稚にキレて返すには、信の顔は真面目すぎた。こいつはなんの冗談を言っているのでもないのだ。
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