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異世界の森で出会った男 1
アパートの外に出ると、森が広がっていた。
「はあ?!」
驚いて反射的に部屋の中に戻ろうと振り返ったが、そこに見慣れた自分の部屋はなく、森が続いていた。
ついさっきまで握っていたドアノブさえ、手の中から消えている。
「っていうか、ここ、どこなんだよ……」
カバンからスマホを出してみたが圏外だし、地図アプリも使えない。
だいたい俺のアパートの近所に森なんてないし、そもそも山じゃなくて平地でこんな広そうな森が広がっているところなんて、北海道とか富士の樹海とか、かなり遠くまで行かないとないと思う。
とにかく森の外に出たいところだが、道も見当たらない。
せめて方角がわかればと太陽の方を見た俺は、大きく目を見開いた。
「なんで太陽が2つあるんだよ!」
ほぼ真上にある太陽は、どう見ても大小2つある。
日本どころか地球上のどこでもありえないその光景を見た俺の頭の中に浮かんだのは、ある一つの言葉だった。
「まさか、異世界とか言わないよな……?」
信じたくなくて否定してはみたものの、どう考えてみてもそれが正解のような気がした。
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「とにかく森から出なきゃいけないことに変わりはないよな」
あまりのショックにしばらく立ち尽くしていたが、やがて気をとりなおした俺は、とにかく移動することにした。
バイトに出かけるところだったので、食料は水筒の麦茶とミントタブレットしかないし、ここが本当に異世界の森だとしたら、モンスターや凶暴な獣が出る可能性もある。
出来れば暗くなる前に、どうにか森の外に出るか、せめて安全そうな洞くつか何かを見つけた方がいいだろう。
どちらに進めば森を出られるのかさっぱりわからないので、とりあえず俺はそのままの向きで前に進んでみることにした。
もしダメだったら戻ってこようと、近くの木を持っていたカギで傷つけて印をつける。
歩き出してみたものの、森の外に出られそうな気配は全くなく、洞くつや水場や人が使っているような道も見つけられなかった。
鳥や動物は何匹か見かけたけれども、どれも小さいものばかりで俺の気配を察して逃げて行った。
もしかしたらこの森には大きな動物やモンスターはいないのかもしれないと思ったが、念のため注意しながら進む。
時々木に印をつけながら何時間も森の中を進み、足が痛くなり水筒の麦茶もなくなった頃、ようやく向こうの方に森の木が途切れているところがあるのが見えた。
俺は足の痛みも忘れ、そちらに向かって走り出す。
「……え?」
森の外に出られると思っていた俺が見たのは、森の外の景色ではなく、森の中にある広場だった。
むき出しの地面と草が生えたところと小さい木が生えたところが入り混じったかなり広い広場で俺を待ち受けていたのは、ボサボサの茶色い髪に髭もじゃの、まるで熊のような大男だった。
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