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異世界の森で出会った男 2

 人に出会えて、これで森の外に出られそうだと少しはほっとしたものの、その男の体が大きくて威圧感があったことと、俺自身が抱えるちょっとした事情のせいで、怖くて緊張して、俺は動くことも話しかけることもできずに固まってしまった。  どういうわけか、男の方も俺をじっと見つめたままで黙っている。  怖かったけれど、このままではどうにもならないから、俺は意を決して男に話しかけた。 「あの、すいません。  俺の言ってること、わかりますか……?」  手のひらにじっとりと汗をかきながらも問いかけると男は黙ってうなずいた。  異世界っぽいから言葉が通じないかもしれないと思ったが、ご都合主義の魔法的な力でも働いているらしく言葉は通じるようだ。 「あの、俺、道に迷ってしまって。  できたら森の外か近くの町まで連れて行ってもらえないでしょうか」  俺がそう言うと、男はまた黙ってうなずき、近くの大きな石の側に置いてあった丈夫そうな布の袋から何かを出してきた。 「木の実?  くれるんですか?」  男がまたうなずいたので、俺は彼が差し出したクルミみたいな木の実を受け取って一つ食べてみた。  香ばしくてほんのり甘いその木の実を食べてみると、自分がかなり空腹だったことに気付かされる。  もらった木の実を夢中でカリカリとかじっていると、男が皮の袋の栓を外して渡してくれた。  受け取ってみると中に水が入っていたので、それも遠慮なく飲ませてもらう。 「ありがとうございました。  俺、食べるもの持ってなくて水もなくなったところだったから助かりました」  俺が礼を言いながら水袋を返すと、男はまた黙ってうなずいた。  さっきからそうやってうなずくだけで、一言もしゃべらない男に、俺はさすがに違和感を覚える。 「あの、もしかしたらあなた、しゃべれないんですか?」  俺の問いかけに、男はまた黙ってうなずいた。  それを見た俺は、本当に申し訳ないのだけれども、すごくほっとしてしまったのだった。

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