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俺の事情 1
男がしゃべれないとわかって俺がほっとした理由には、俺自身が抱えている事情が関係している。
俺が高3の夏、両親の仲が険悪になった。
もともと両親はとくに仲が良くも悪くもない普通の夫婦だったのだけれど、いったい何がきっかけだったのか、その頃から急に仲が悪くなり、しょっちゅう口ゲンカするようになった。
お互いのちょっとした癖やささいな欠点をあげて嫌いだと言い合ったり、昔の出来事を蒸し返して互いに責めあったりする両親の口ゲンカは、とてもじゃないけど隣で聞いていられるようなものではなくて、2人のケンカが始まると俺はそっとリビングを出て自分の部屋にこもり、ヘッドホンで音楽をかけて両親が互いをののしり合う声を聞かないようにしていた。
家の中の雰囲気は最悪で、受験勉強にも身が入らなくなり、両親だけでなく俺もずっとイライラしていたのだが、そういう態度は知らない間に外に出てしまっていたらしい。
気がついたら俺は友達と作っていたメッセージアプリのグループから外されてしまっていた。
考えてみたら、夏休みの後半ぐらいから友達からのメッセージをしょっちゅう既読スルーしていたし、一緒に遊んだ時もみんなに着いて行くだけで話しかけられても生返事だったし、みんなの誘い自体を断ったりもしたから、グループから外されるのも当然だと思う。
さすがに自分の態度が悪かったと反省して、2学期が始まってみんなと顔を合わせた時、両親がケンカしているせいでイライラしてたから態度が悪くてごめんと、事情を話して謝った。
一応はそれでみんな許してはくれたのだけど、どうもそれは口だけのことで実際には許してもらえていなかったらしい。
俺が話しかけてもみんなろくに返事もしてくれないし、メッセージアプリのグループにももう一度入れてもらったけど俺抜きで新しいグループを作ってみんなそちらで話しているみたいで元のグループではまったく会話がなくなり、俺はほとんど孤立状態になってしまった。
俺が友達にハブられるようになってから、クラスの他の奴らも何となく俺に近づかなくなってしまった。
ハブられたとはいえ、高3にもなるとさすがに露骨にイジメられたりはしなかったけれど、その代わりにこそこそと、しかし俺に聞こえるような声で、俺のうわさ話をされるようになった。
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