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再会
どうにも落ち着かず、飲もうとした水をシャツに零してしまう。慌てておしぼりで拭きながら、春翔はため息を吐く。
ー何やってんだ、せっかく自分の中の最高お洒落な服で来たのに。
夏、リゾートホテルで泊まり込みバイトをしていた時、坂崎春翔 は同じ大学の薬学部5年咲田悠 と知り合った。
悠は予定より早くバイトを辞め家に帰ったが、春翔は8月下旬まで残ったので、会うのは本当に久しぶりだ。
ラインメッセージで連絡は取っていたので、泊まり込みバイトから家に戻ると、悠と会う予定を立てた。しかし今日を迎えるまでに悠の方から二度キャンセルがあり、その度に本当は迷惑なんだろうか、嫌われているんだろうかと、かなり落ち込んだ。
悠の方から会える日程の連絡があった時は、叫びたいほど嬉しかった。ようやく実際に会える事になった今日。誰かと待ち合わせで、こんなにも浮つく気持ちになったのも初めてだ。
入口をずっと眺めていると、待ち焦がれた人が現れる。
夏のバイト中は全員がTシャツに短パンで、悠も例外なくラフな格好をしていた。その時はその時で、色白の悠が露出の多い服を着ると眩しく感じていた。
今日はシャツに七部袖の紺ジャケット、スキニーのジーパン。身長は170くらいで春翔より低いが、顔が小さいので全体のバランスが凄く良い。夏より伸びた髪は整った顔によく似合い、まんまファッション雑誌から抜け出たようだ。
悠が店内を見渡して春翔を見つける。笑顔を見せる。手を軽く上げ近付いて来る。
動悸が激しくなるのを自覚しながら春翔は悠から目が離せない。自分の真ん前に座る悠。会いたかった悠が目の前にいる。
ファミレスの女子店員が悠の分の水を持って来た。ご注文が決まりましたらお呼びくださいと言いながら、悠を二度見する。
そうだよなと春翔は思う。そりゃ二度見するよ、と。色白の肌と薄く桃色の頬、対比で余計に紅く見える形の良い唇、長い睫毛。
春翔が悠を見つめていると入口付近から声がした。
「あ!いたいた!」
ーえっ?この声…。
春翔が悠と出会った夏のバイト仲間のN大学2年泉大輔 と、K大学1年の中村拓真 がこちらに向かって来ていた。
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