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女におぼれた二世

ー蛍sideー 『梓様の子は役に立たない』 『どうして梓様が亡くなられてしまったのか』 『梓様が生きておられれば』 『ろくでなしの息子が、トップにいても…』 俺は、組織の人間たちの噂を思い出して、ベッドの中で失笑した 母が偉大だと、息子は何をしてもろくでなしの小僧になる 無理やり、俺を組織のトップにさせておいて、好き勝手な発言ばかりを言うものだ 好きにやっていいと俺は言った 俺は何も言わないと…だから好きに組織を作り変えていいのだ 俺の了解など気にせず、母が目指していた組織拡大に力を注げばいいのだ 「蛍? もう帰るの?」 昨晩、夜を共にした女性が俺の腕を掴んでくる 生温かい感触が、皮膚から伝わってくる あまり好きじゃない感覚だ 「俺、学生だから。学校行かないと」 ベッドから足を出すと、俺は脱ぎ散らかした服を拾って着替えた 黒色のジーパンに、黒のシャツを頭からかぶると、女性の寝室にある鏡台の鏡で寝癖を確認する 目立った髪の乱れはない 軽く手櫛で髪の通りを滑らかにすると、俺はシャツの袖から見える左腕の弾痕に目をやった 一生消えない傷痕であり、俺の左手の自由を奪った 完全に動かないわけじゃない リハビリでかなり動くようになった 一人で着替えもできるし、ちょっとした料理も作れる ただパソコンは無理 携帯の両手打ちもできない 細かい作業になった途端、俺の左指は固まる 「じゃあ、帰るね」 俺はベッドでまだまどろんでいる女性に声をかける 女性は布団の中から細い手だけを出すと、ひらひらと振った どうやら眠いらしい 『ふっ』と俺は笑うと、一人で玄関に向かう 靴を履く ゆっくりと女性のマンションの玄関を開けると、拳銃を構えているライさんが、怖い顔で俺の額の位置で銃口を向けて立っている 「おはようございます、ライさん」 俺はにっこりと笑うと、ライさんの眉がぴくっと動いた 「驚かないなんて、些か心外なんですけど」 「驚いているよ、僕の浮気がバレちゃったわけでしょ?」 「浮気? 誰と誰が付き合ってるって言いたいのでしょうか?」 「ライさんと俺。一流高校に入学したし、一流大学にも入学した。そろそろ考えてくれても良いと思います」 「まだ商社マンという仕上げが残っていますよ」 俺と恋愛なんか鼻からする気がないくせに 「そうでしたね。じゃ、また」 俺はライさんに手を挙げると、エレベータに向かって足を踏み出した 「何、帰ろうとしてるんです?」 ライさんの銃口はまだ俺に向いている 「だって、俺、大学に行かないと」 ライさんの目が鋭い 相当、怒っているように見えるけど、『嫉妬?』なんて質問した日には、きっと足を撃ち抜かれるんだろうなあ 智紀以外の人間には、冷たいし、愛情を示さないからなあ、この人は 何年待っても、俺に振り向いてくれそうにないし どう反応していいか…わからない 「大学に遅れるわけにはいかないんですけど」 俺は腕時計で、時間を確認する 別にまだ遅れないけど まあ、真面目に通ってるし、一回くらい授業をさぼっても平気なんだろうけどさ 「ここで何をしていたんです?」 冷たい口調で、俺に質問を投げてくる 「何って…ナニだけど」 「はい?」 「だからセックスをしていましたよ。今頃、この部屋の人…寝ていると思うよ。結構、激しい人だったから。疲れているは…ず…」 俺の額に、冷たい銃口が触れる 「で?」 ライさんの綺麗で高潔な顔が、俺の眼前に飛び込んでくる 細く鋭くなった瞳が、まるで俺を軽蔑するのように見上げていた 「それだけ」 「はい?」 「だからセックスしただけ。あとは何もしてないよ…てか、してる暇すら貰えなかったっていうか」 ライさんが『ふん』と鼻を鳴らすと、俺の肩を押した 勢い余って、俺は壁に背中を打った 「本当だよ。久々の若いエキスだぁ…とか言っちゃってさ。凄かったんだから。いや、マジで。流石の俺もちょっと、気を失ったっつうかさ」 「そんなこと聞いてないっ!」 ライさんが怒鳴った 怒り肩にして、大きく息を吸うと、ぷいっと横を向いてしまう だからさあ そんな風に怒るなら、俺を恋人にしろって 恋愛対象の枠に入れてよ 俺だって、寂しいんだよ? わかってんのかよ こんなにライさんを想ってるのに、受け入れてもらえない俺の心を 行き場所のない心の拠り所を、どうすりゃいいんだよ 6年だよ、6年 最初に告白してから、もう6年も過ぎてんだよっ いい加減にさ 互いに答えを出そうよ 「俺、大学に行くから。尋問するなら、夜にして」 俺はライさんから離れると、エレベータに乗って一階に下りた

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