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残酷な現実

「何だ、これ」  僕は茶封筒の中身を見て、膝がガクガクと震えだした。  珍しく恵が、デスクの引き出しに鍵をかけてないと思って、興味本位で中を開けてみた。  仕事で使う資料がざっくばらんに投げ込まれている中で、僕が今手に持っているのだけが、丁寧に仕舞われてあったのだ。  ボロボロで年季の入った茶封筒に、厚さ五センチにもなる紙の束が入っていた。  恵は表の社会では、一流企業の社長で、裏の世界では、ヤクザってほどじゃないがそれなりに名の通っている奴だ。  ヤクザというよりも、マフィアに近いと僕は思うが。  茶封筒に入ってた用紙を最後まで斜め読みしてから、僕は天井を見上げた。  煌々と光る蛍光灯がやけに眩しく感じる。 「恵が、僕たちの両親を殺した……のか?」  信じられない。  交通事故で両親が死んだと思っていた。  恵が交通事故で死んだようにカモフラージュし、実際は殺されていたなんて。  父は警察官で、恵のいた組織に潜入捜査していて、バレて殺害された。  情報が漏れないように妻である僕のお母さんも……。  その後、ずっと恵は残された子どもたちの生活を、探偵を使って調べている。  どこに住んでいて、どんな生活環境で。どんな友人とツルンでいるのかも、全て。  僕たち兄弟を遠くからずっと見ていたんだ。 「じゃあ、僕がここにいるのは偶然じゃない? 恵によって仕組まれていたんだ……」  僕が他の社員よりも待遇が良くて、給料も良くて。智紀中心に、仕事をしていいのは、僕の能力をかっているんじゃなくて。  ただの罪滅ぼしってこと?  両親を殺した恵なりの償いなのか? 「くそっ」  恵にどういうことなのか、問いただしたいが、この事実は恵が隠したい紛れもない現実なのだろう。その証拠に、この資料だけ丁寧に保管されている。 こんなに大事に、恵が管理しているのが何よりもの証拠。  嘘ってわけじゃない。  恵は嘘の情報を、大切に持っているような人間ではない。  すぐにでも飛び出して、智紀と一緒に恵の前から姿を消してしまいたいくらいだが、それもできない。  智紀中心に生活して、さらに高収入な仕事もできるなんて……ここしかない。  恵の会社だから、許されることであって、他では絶対に無理だ。  給料も良いし、僕はどこにも行けない。  僕は書類をボロボロの茶封筒に仕舞うと、静かに抽斗に戻した。  信じたくないが、信じなくちゃいけない事実なのだろう。  この過去は僕の胸の中に仕舞っておこう。智紀には、知ら無くて良い事実だ。知る必要なんて無い。  僕が黙っていれば、誰にもわからないんだから。  この先、何があっても僕の口からは黙っていよう。智紀のために……。  僕は何よりも、智紀の幸せを願っているから。 『誰があんたなんかとⅣ』終わり 『誰があんたなんかとⅤ』に続きます。

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