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つゆ草は涙を流し

 ――おれは、どこにでもいる男子高校生だったはずだ。それがどうして、こうなった?  激しく降りしきる雨を凌げる大きな樹の下、美しい青年はぼんやりと、豪奢な衣装が汚れるのも厭わず地面に座り込んでいた。遠くで雷が鳴り、どうにか雨がやまないものかと空を見上げるも、重く黒い雲からはとめどなく雨粒が落ち続け、晴れる様子は見られない。  着ている装束は豪華で色彩も鮮やかであったが、悪く言えば悪趣味だった。少なくともの趣味ではない。 「……はぁ」  その整った顔を顰めては溜め息を吐く繰り返しだ。  雨水を多分に吸った装束は重く、今すぐにでも脱ぎしててしまいたい。立派な履物(厚底の下駄? 見たことのない靴だ)を履いた足元も、泥だらけだし、ずっと山の中を歩いていたせいで足も痛い。  動くたびにしゃらしゃらと耳元で耳飾りが音を立てる。記憶違いじゃなければ、ピアスホールは開けていなかったはずだ。そろり、と指先を這わせて確認をすれば、耳飾りはしっかりと柔い耳朶を貫通していた。それともうひとつ、ちらちらと目の前を掠める真っ白い、透けるような色彩の髪は、ほんとうに自分の頭髪なのだろうか。  ちょい、と好奇心に任せて抓み引っ張れば、確かに地肌が引っ張られる感覚をした。 「なんで、」  おれがこんなところにいるのだろう。それは声にはならなかった。  肌を突き刺す空気に、ハッと顔を上げる。なにかに突き動かされるように立ち上がり、雨の中を走りだした。  ――おれは、確かにただの高校生だったはずなのに。これはなんの冗談だ。なんの夢だ。中二病は卒業したはずだろ。  うしろを、ナニモノかが追いかけてくる。  明確な殺意を持って、それは追いかけてくる。

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