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第17話
翌日の午後、鮫洲と昼を過ごした臣人の手には、1枚の紙が握られていた。
紙といっても、紙のように薄い電子ペーパーであり、オンラインで内容を書き換える事ができる。
小さく折り畳め、折り跡も残らないそれは、紙より少し値が張るが、使い回しができる点で広く普及していた。
臣人は電子ペーパーに記載された、7×5の格子を見詰める。
格子の中には月~日までの曜日と日付。
「本当にちゃんと週3日入ってる……」
鮫洲から渡されたカレンダーを前に、臣人は小さくため息を吐いた。
昨日に続いて昼休憩にやって来た鮫洲は、弁当を広げながら件の電子ペーパーを取り出した。
「これ、オレのスケジュールです。写しなんで河鹿さん持っててください」
「スケジュール……」
「はい!週3日、昨日どの日にするか決めるのに夜中までかかりましたっ」
なぜか自慢げに胸をはる鮫洲に、臣人は不思議そうにきょとんと首をかしげた。
「そんなに、忙しいんですか?」
「へ?」
「時間の調整に、夜中までかかる…んですよね……?」
「あ、いや、そうじゃなくてですね」
どう答えたら良い物かとあたふたする鮫洲を前に、臣人は少しうつむいた。
「あの、俺、もしかして、見当違いのこと、言いました?」
様子を伺うように、途切れ途切れに尋ねる臣人に、鮫洲は更に慌てふためく。
「ええっと……、見当違いというか、えと、忙しい訳じゃなくて、スケジュール調整に時間がかかったのは……」
言葉に詰まり、視線が宙をさ迷う。
「あの……」
中々理由を話さない鮫洲を不思議に思った臣人が顔を上げると、ちょうど視線を下げた鮫洲と目があった。
「あ」
鮫洲の頬が途端に赤く火照る。
「……本当は、毎日会いたいから」
真っ直ぐに見詰められながら呟かれた言葉。
だが、臣人は微かに眉をしかめた。
「毎日は、無理です」
「っ」
しまった。
『週に3日』は臣人から最大限譲歩してもらった物なのに。
「すみません。困らせてしまって」
今のは忘れてください。
鮫洲は少し寂しそうに微笑んだ。
去っていく鮫洲の背を見送って、臣人は一人、作業ブースに戻って弁当を広げた。
弁当箱の中身を口に運びながら、先ほどの事を考える。
(毎日……会いたい……?)
自分に?なぜ?何が楽しくて……?
「そんなに気を使わなくても、仕事ならちゃんとやるのに」
鮫洲はたぶん、仕事で組む人間との関係を良好にする事で、成果をより良いものにするタイプなのだろう。
(システムのメンテだけじゃなく、人間関係のマネジメントまでするなんて大変だな……)
臣人はそう結論付けると、空になった弁当箱を包みなおし、カバンへしまった。
ついでにさっき鮫洲からもらった電子ペーパーをしまおうと手に取ると、目の端に明日の日付が映る。
「お昼」の印がついている。
(気を使わなくていいって、ちゃんと言わなきゃ)
電子ペーパーをカバンに押し込み、臣人は午後の仕事へと向かった。
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