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■節分SP■君に捧げる愛の歌⑧

あったかい。 温もりが包んでいる。 俺の頭の下に、あなたの逞しい腕がある。 「ハルオミさん?」 「うん」 やっぱりハルオミさんだ。 「どうしたんだい?」 「うぅん……」 「おかしな君だ」 ころん。 アヒルちゃんが転んだ。 頭の下の腕を曲げて抱きしめるハルオミさん。 「良かった。ちゃんと私が分かるようだね」 深い溜め息が髪に降りてきた。 (そうか) 俺、気を失って…… 「お風呂じゃない」 「不満かい?」 緩く首を振る。 俺を包む暖かい場所は、ハルオミさんの腕の中だ。 体を横たえているのに溺れないのは、ハルオミさんに抱かれたベッドの上だから。 ハルオミさんが運んでくれたんだ。 どのくらい眠っていたんだろう。 まだ夜だって言ってたけど。 「気になるかい?」 「だって」 ハルオミさんは多忙だ。日々、内閣副総理の山のような仕事に追われている。 俺はどれだけの時間寝てたんだろう? 何分?何十分?何時間? 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 俺のために。 俺なんかのために…… 「ねぇ」 指の先で額に落ちた髪を梳くと、端の掠れた声が舞い降りた。 「君に付き添う事は、いけない事なのかな?」 指から滑り落ちた髪をすくう。 「私は君の夫だ」 すくい取った髪に口づけが落とされた。 「呼んでくれないかい。君の夫の名を」 「ハルオミさん……」 「君の夫に別称はあるかい?」 「シュヴァルツ カイザー」 「正解だよ」 大きな手が頭を撫でた。 「しかし君は間違ってるよ」 口許に柔らかな笑みを、あなたは浮かべた。 「シュヴァルツ カイザーは君の夫じゃない。思考を読み、思考を操るシュヴァルツ カイザーは君の思考を操れない」 操った事もないさ。 「君が、私の目指すものを共に見てくれている。それだけの事で、だがそれだけで価値があるんだ。君と夫婦になれた事はね」 熱い体温が頬に降りてくる。 両手に頬が包まれる。 「君の夫は、シキ ハルオミ。唯ひとりだよ」 唇が塞がれた。 あなたの熱が、舌を絡めて押し寄せる。 あなたの熱に飲み込まれる。 「誰にも渡したくないよ」 君を、 「ユキトにも、アキヒト君にも。シュヴァルツ カイザーにも渡さない」 両腕の熱が覆う。包む。 あなたの背中に腕を伸ばす。包む。 抱擁し合いながら口づけを交わす。 「君を心配し思いやる気持ちと共に、この胸の中には独占欲が渦巻いている。狭量な夫だよ」 苦笑を浮かべたあなたが愛しい。 「好き」 あなたが好き。 「ハルオミさんだから」 全部好き。 どうしたら伝わるんだろう。もっともっと、伝えたいのに。 好き。 大好き。 好きだと想う言葉以上の好きな気持ちを一体、どうやって伝えたらいいんだろう。 俺には術がなくて。 あなたを抱きしめる事しかできなくて…… 「伝わってるよ」 大丈夫だよ、ナツキ。 どうして、ハルオミさん。 ……思考を読んだ? (やっぱり、あなたはシュヴァルツ カイザーだから) 「違うね」 口許に少し意地悪な笑みを浮かべた。 「夫婦は以心伝心だよ」 「じゃあ、これは伝わってる?」 意地悪な笑みすら愛しくて。唇を尖らせた。 「おねだり上手だ」 ころん…… アヒルちゃんがシーツの波に飲まれて転がった。 「君が私のものである事を見せつけたくて、大好きなアヒルちゃんを連れてきてしまったよ」 だけど…… 「今の君の顔は誰にも見せたくない」 包まれて。抱きしめられて。強く、強く。 今の俺はハルオミさんだけのものになったんだ。 「すまないね。君に無理をさせてしまった」 「少しの無理なら大丈夫」 「君は……そうやって、私を甘やかすのが上手だ」 それはハルオミさんでしょ。 夫婦は以心伝心。 ハルオミさんだって俺を甘やかしてる。 (俺の欲しいもの) キスしてくれて、抱きしめてくれて、右手で左手ぎゅって握ってくれて。 (大切な気持ちを伝えてくれる) 俺はハルオミさんを独占している。 (幸せって感じたらダメかな?) 「独占欲を受け止めてくれて、ありがとう」 サファイアの眸に魅了されるんだ。 俺が『あなたの俺』になる。 「そんな顔をするから……」 ねぇ、ハルオミさん。 俺はどんな顔してるの? 「もっと君を独占したくなってしまうよ」

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