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第29話 決心 Ⅱ
海音の病室の前で 一呼吸置くと意を決して扉を叩いた
「どうぞ」と言う海音の声を聞いてからドアを開けた
俺の姿を見た海音は少し目を見開いた後、困った様に眉を下げた
「…ゴメン、もう来ないでって言われたのに図々しく来て」
「…うん」
「俺…あれからずっと考えてて…色んな事考えてて…」
「…うん」
海音は今まで見た事のない複雑そうな表情をしていた
それでも俺のまとまりのない話に何回も相槌を打ってくれた
「俺、ケガした時に溺れてさ…痛くて苦しくて、もうこのまま死ぬんじゃないかって思ったら、めちゃくちゃ怖かったんだ」
「…うん」
「…だから…その…俺 何も出来ないけど、出来ないんだけど!!
それでも…海音が…俺なんかと比べるなって思うかもしれないけど、あの時の俺みたいな気持ちになってたらって思うと…やっぱり側にいたくて…」
自分で言ってて涙が滲んだ
纏まりの無さや無力感、自己満足の塊
そんな思いで胸が押し潰されそうだった
「…永遠」
呼ばれて顔を上げると海音も泣いていた
入口に立ち尽くしていた俺は 海音のいるベッドに歩み寄ると、そっと細くて白い手を握った
「…僕ね、死ぬのはもう本当に怖くないんだ
むしろ やっとこの苦しみから解放されるっていう気持ちさえある
でもね…」
言葉に詰まった海音は小さく震えていて、俺の手を弱々しくも握り返してくれた
「き…昨日 永遠にあんな事を言って、自分で言ったくせに もう会えないんだって思ったら…すごく悲しくて、久し振りに 一人の病室を怖いって思った…」
「…海音」
「来てくれて…ありがとう
僕の事考えてくれて ありがとう
すごく…すごく嬉しい」
「海音!!」
涙を流しながら俺の大好きな笑顔を向けられ、気が付いたら華奢なその身体を抱き締めていた
海音の身体は 力を入れたら折れてしまいそうな程細くて、この身体で自分の運命を受け入れている事に尊敬の念を抱いた
「海音…俺は 海音の気持ちを尊重したいって思ってる」
「永遠…ありがとう…」
「俺、一緒にいて話し相手になる事くらいしか出来ないけど…」
「嬉しいよ…永遠といると悲しい気持ちや辛い気持ちが減るんだ」
ああ…海音の悲しみや辛さが全部俺に注ぎ込んでくれれば良いのに
そしたらこの無力感も 少しは減るんだろうか
「海音…俺 なるべく毎日来るから」
「それは…永遠 大変じゃない⁇ 学校もあるのに…」
「俺が海音に会いたいだけだから大丈夫」
「…永遠」
無意識に白い頬に手を伸ばしていた
俺にとって聖域の様に感じていた海音に触れて、今まで人に抱いた事のない気持ちが湧き上がってくる
「…永遠⁇」
海音に名前を呼ばれてハッとなり、パッと手を離すと その場を取り繕う様に笑った
「ごめん!! なんか…ベタベタ触ったりして…」
「…ううん…今日は本当にありがとう」
いつもの様に綺麗に笑う海音に見惚れてしまった
その時ドアがノックされて、大袈裟と言われるくらい肩が跳ねた
海音の返事の後、看護師さんが入って来て海音の腕に点滴を付けていく
一度雰囲気が変わったお陰で、その後は前と同じ様に海音と話す事が出来た
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