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第1章1話 初恋
初恋がいつかと聞かれたら城野 由貴 は保育園の時だと答える。多分それは入園式の次の日の下駄箱の前から始まった。
「げっ」
「どうかしたの?」
普段何事に対しても無関心な彼がそう尋ねたこと自体が珍しいことだった。
「上履きっていうの?教室で履く靴、あれもってくるの忘れた」
悔しそうに悲しそうに半ベソをかく坂下 ゆづるを見た時の何とも表現し難い感情を城野は今も忘れられない。
「マヌケめ」と罵りたいような
「大丈夫だよ。先生たちのとこ行ってスリッパ借りよう」と慰めてやりたいような。
そこから始まってそれからずっとそんな調子だった。
くるりとした大きな目が特徴的な坂下ゆづるという少年の言動に城野由貴が一喜一憂する日々はそんな風に始まったのだった。
それが癪に障る、それなのにどうしてもゆづるから目を逸らす事が出来ない。
ただゆづるがその大きな目を一層大きくして
「由貴 ちゃん、すげぇーなぁ」
と笑うと退屈でつまらない自分の無色な世界に色が付く。
今まで見たこともなかったその綺麗な世界で生きていきたい城野は思った。
だからゆづるを、ゆづると自分のふたりの世界を守っていきたい。
きっとその為には、自分はどんなことでもしてしまうだろうと、まるで予感のようにそう思った。
けれど別れは突然訪れた。
両親が離婚してゆづるは父方の祖母の田舎に預けられることなったのだ。
「由貴 ちゃん、大きくなったらまた会おうね」
ーーだから、泣かないで…由貴 ちゃん
小さな手で頬に触れられ指先で涙を拭われて
城野は自分が泣いていることを初めて知ったのだった。
そして彼の世界は再び色を無くした。
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