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第1章2話 由貴
数年後
「貴方って最低ね」
よく似た言葉をつい最近別の女からも聞いたばかりだった。
「そりゃどうも」
「褒めてないわよ」
どうしてこんなにヒステリックになれるのかと城野は不思議そうに目の前の女を少し首を傾げて見つめた。色素の薄い茶色の髪がサラリと揺れる。
二次元から抜け出して来たような完璧な美貌に見つめられて女の頰が赤らむ。
「由貴 ……?」
媚びの匂いの混じる声で名前を呼ばれて虫酸が走る。
「失せろ、尻軽」
彼にとって下の名前を呼ばれることには特別の意味があった。だから一度はずみで寝ただけの女に軽々しくその名前を呼ばれる事は耐えられなかった。
「ひ、ひどい!ほんと貴方って噂通りのクズね」
お決まりの捨て台詞を置いて女は立ち去った。
「勝手な女」
自分だって友達の恋人と寝るくらいにはクズだろうに。別に特別寝たくもなかったしもちろん好きになった訳でもなかった。
誘われたからなんとなく寝てみた。ただそれだけ。
敢えて理由を挙げるならば退屈だったせい。
だから別れ際に
「これからも時々深月と内緒で会わない?」と言われて「あー、やめとくわ」と断ったのだった。
「何故?」
「何故?別に理由なんかないけど?
それともオレになんかメリットある?
またあんたと寝て」
「み、深月に言ってもいいのよ」
その言葉に長めの前髪の下の目がすぅぅと細くなる。
「へぇ、面白いこと言うじゃん。
どうぞどうぞ、こんなことぐらいでどうこうなる仲じゃないし、オレら」
軽い口調と裏腹に細められた目の光は鋭く、それに脅えながら彼女は尋ねた。
「こんなこと?」
「そう、こんなこと」
ーーこんなどうでもいいこと
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