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第3章 思い出の眠る町で1
その町に帰ることになったのは、幼い頃に祖母と住んでいた古い家に買い手がついて、その為の契約だとか諸々の整理の為だった。
ブロック塀に囲まれた広い敷地の中に建てられた木造平屋造りの日本家屋。
陽の光りに輝く銀色の瓦屋根。所々錆びついた大きな黒い鉄製の門。広い玄関と中央には廊下が走り、奥には仏間。反対の端には洗面所とお手洗い。坂下の部屋には小さな縁側が付いていた。
その家に祖母と、約十年の間、暮らした。
祖母は明るく大らかな人だった。
それは葛藤もあったのかもしれないが、息子が孫だと言って置いて行った子供を受け入れて、育てようとするくらいに。
けれど難しい年頃に差し掛かると少年にはその大らかさが無神経に感じられることが多くなった。
自然と家での会話は少なくなっていく。
最後の夏のことは今でも嫌になるくらいよく覚えている。
ちょっとした口論の後で
「早よ、寝なさいよ」
自室に向かう前に、穏やかな声でなだめるように坂下の背中に声をかけた。
それが祖母の最後の言葉だった。
あの時、自分はなんと答えたのか。
もっと優しくしてあげられたのかもしれないと思うと、涙は苦く、いつまでも止まらなかった。
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