37 / 64

第3章 思い出の眠る町で2

「坂下ぁ?」 「あ、あー!佐々木?!!」 「お前、変わんないなぁ。すぐ分かったよ」 「お前だって全然、変わってないぞぉぉ」 アイドルみたいな風貌の同級生は昔からとても目立っていた。 「相変わらず、キラキラだな」 「なんだよ、キラキラって」 笑う目元と茶色の髪。 脳裏に何かが引っかかった。 その正体を捕まえようと坂下は記憶を探る。 ここで過ごした最後の夏。 花火大会の夜。 あの夜にも佐々木は今日と同じように声をかけてきた。 浴衣姿で何故か裸足で。 手に赤い鼻緒の下駄を持って。 「お前、2学期から転校しちゃうんだってな」 河原に続く薄暗い道を並んで歩いた。 「ああ」 「おばあさん……亡くなったって、聞いた」 「うん。ってか、なんでお前裸足?それ、履かないの?」 明日の天気を聞かれたみたいに、なんでもないふりで返事をして。 関係のない話しに振った。 癒えない後悔という傷。 「あ?これ?あははは」 クラスメイトは手に持った下駄を目の高さくらいまで持ち上げて、揺らして見せた。そして困ったように笑ったその後で、優しい(かお)になって言った。 「これは、深月の」 ーー深月

ともだちにシェアしよう!