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第3章 思い出の眠る町で3
その中学校は祖母の家からひたすら自転車のペダルをこいで、国道を三回曲がった場所にあった。
通学路は一面の水田で、そこを走る綺麗に舗装されたアスファルトの道。
子供でも大人でもない中途半端な自分達の姿と重なるアンバランスな景色を背負って、晴れの日も、雨の日も、雪の日も、懸命にペダルを踏み続けた。
その頃の坂下と佐々木佑月は特別に親しくしていた訳ではなかった。
ただ佐々木佑月という少年は双子の妹である佐々木深月と共にこの小さな町ではとても目立つ存在だった。それはふたりといつも一緒にいた早見蓮という少年も同様だった。
「に、しても、僕ら何年ぶり?会うの」
地元の高専に進学してそのまま今の会社に就職したのだと話す佐々木は、そう聞いて、そのくせ
「越したっきり一回も帰って来なかったから、6年?いや、7年か」
と、自分で答えを出してしまう。
今も綺麗な顔をしているが、昔はもっと線が細く繊細で、不用意に触れてしまうと壊れてしまいそうなイメージだった。尖っていた角が少し丸くなったように感じるのは、きっと月日が彼に優しく流れたせいなのだろう。
一度も帰らなかったのは、ここが自分の帰る場所だと思っていなかったから。
坂下が五歳の時、両親は離婚した。
父にも母にも既に他に愛する人がいて、五歳の命はただ邪魔なだけの存在になった。
「可哀想な子」
それは、幼い子供にかけられた呪文、或は、呪いの言葉だった。
突然始まった祖母と二人の暮らしは、突然に終わった。
それからずっと未来 だけを見て生きて来た。
可哀想な子供じゃないと証明し続ける為に。
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