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第3章 思い出の眠る町で4
「正式な契約日までに必要な準備、書類、注意点等、記載したものが入っていますので、後で目を通しておいて下さい」
封筒を手渡して佐々木は言った。
「ああ。サンキュ。お前がいてくれて助かったよ」
祖母の家を買ったのは、企画開発から販売まで手がけるリノベーションに特化した住宅販売会社だった。その会社の営業部にいたのが佐々木だ。
「まさか、こんな形で再会するとはね。それで、坂下はしばらくはこっちにいるんだろ?どこ泊まってるの?」
書類を坂下に渡すと、仕事はそこで終わったとばかりに、砕けた口調に戻った佐々木が尋ねた。
駅前は開発が進んで、坂下がいた頃とは随分、様子が変わっていた。
商店街へと続く大通りを歩いて、ここに来る途中に、以前にはなかったビジネスホテルも建っていて
「まだ、決めてないんだ。お前、どっか良いとこ知ってる?」
知らないと言われたらそこにでも泊まるつもりで坂下がそう聞くと
「それなら、とっておきの場所がある」
楽しいことを教える時みたいに佐々木は瞳を輝かせて答えた。
「おう、どこ?」
「僕のとこ」
「えっ?」
「僕んちに泊まりなよ」
「いや、それは……」
「あれ?いやだった?なんか、懐かしいし。良かったらおいでよ。蓮ってやつ覚えてる?早見蓮。あいつも ちょくちょく泊まっていくんだ。遠慮はいらないよ」
佐々木佑月がキラキラな王子なら早見蓮は王子の番犬だ。
一部でそう囁かれてのを多分知らないのは佐々木だけだ。
とにかく、男であっても女であっても佐々木に近寄る人間全てを牽制していた。
「いや、ちょっと、それは……」
当時でさえも早見の無言の圧、みたいなものは相当だったし、元クラスメイトとは言っても、早見にとって自分は馬の骨以外の何者でもないと確信出来るから、坂下は断りの言葉を探す。
それにしても佐々木がこんな調子では早見も気が気ではないだろう。
長身で寡黙だった元クラスメイトを思い浮かべて坂下は苦笑する。
「なっ。そうしなよ。ちょうど妹も帰って来てるんだ」
ーー妹……
心地の良い落ち着いた声と茶色の髪。
「妹?」
茫然と目の前の男を見つめる。
そうだ。この目。
完璧なアーモンドアイ。
「そう、深月も東京から戻って来てる。案外、お前たちふたり、知らずに向こうですれ違ってたりしてな」
ーー深月
脳裏に引っかかっていたものの正体が分かった。
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