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第3章 思い出の眠る町で5

バスなんて一時間に一本もでていない時間帯。 かといって、流しのタクシーが通る訳もなく。 佐々木の誘いを断った坂下は、駅までの道を歩いていた。 今日は暖かな日だと思っていたのに、太陽が雲に隠れると途端に風は冷たくなった。 薄手のコートの前を合わせて、恨めしげに空を見上げる。寒いのは昔から苦手だ。 目に映ったのは、薄曇り色の空に咲く白い花。 春に降った雪みたいに白くて。 綺麗だった。 「そういえば、二年くらい前になるかなぁ、僕も一度、深月の彼氏に会いに東京に行ったんだ。あっ、シスコン、って、思ったろ?」 別れ際に、佐々木はそんな話しをした。 「その彼氏って、いうのが、もう、すっごい男前でさ、僕、同じ男なのに、なんだか緊張した。あはは。まぁ、深月も美人だからお似合いだったんだけどさ」 クラスメイトの話しと今見た白い花が忘れたいと願う面影を呼び覚ます。 もう、断ち切ったと、思っていた。 終わりに出来たと。 なのに、簡単に。 こんなにも簡単に引き戻される。 溺れて。 海の底に沈んでしまっても。 ふたりなら構わないと思った相手は 突然消えた。

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