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第3章 思い出の眠る町で6
坂下が城野のマンションを訪ねたのは、ゼミの勉強会の帰りだった。
衝動的に酷いことを言ってしまったことをどうしても顔を見て謝りたかった。
本当はもっと早くにそうしたかったが、顔向けする勇気がなかなか持てずに、やっと、決心がついたのは諍いの原因になった勉強会の終わった日だった。
「さっさと、会って、さっさと謝って、さっさと、仲直りしてこいよ!」
城野の代打で会に参加した親友にそんな風に背中を押されて、城野のマンションへ足を向けたのだった。
*
抱き合うふたりを見た時。
まるで映画のワンシーンみたいに綺麗だと思った。
マンションの側に植えられた木には白い花が咲いていて。
恋人達を照らす照明みたいにふたりを見下ろしていた。
不意に彼女が顔を上げて、恋人の肩越しに坂下と視線が交わった。
アーモンドの形をした目が驚愕に見開かれる。
坂下は踵を返し静かにその場を立ち去った。
もう、城野は追いかけては来なかった。
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