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第1話
僕は小泉 千佳(コイズミ チカ)。
今は大学二年生で、都内にある美大に通っている。
「千佳、コーヒー淹れたよ。」
「はーい。ありがとう、雅治さん。」
僕を呼んだ彼の名は、高田 雅治(タカダ マサハル)さん。
僕の恋人で去年から付き合い、同棲している。
某有名大学を卒業しており、今はフリーライターとして活動しているため、恋人の僕に合わせて美大の近くにある一戸建てを購入した。
雅治さんはとても優しくて、かっこよくて、仕事もできて、僕と四つしか違わないのにとても大人っぽい。
社会人二年目で家を購入できるなんて可笑しい話だが、雅治さんは大学の時からデイトレをして成功していたらしく、お金がたんまりとあるそうだ。
「今日は何限から?」
「二限と三限だよ。お昼は帰ってから食べようかな。」
「何言ってるの。お弁当作ってあげるから、ちゃんと十二時に食べな?」
雅治さんはコーヒーを飲む手を止めて、キッチンへ向かった。
僕に規則正しい生活をしてほしいらしく、まるで母親のように僕の身の回りの世話をしてくれる。
昼ごはんくらい多少遅くてもいいのに…。
雅治さんの生真面目さは時々見ていて疲れることがあった。
午前十時、テレビを見ているとあっという間にこんな時間だ。
雅治さんからお弁当を受け取り、鞄を持って靴を履く。
「いってらっしゃい。大学が終わったらまっすぐ帰ってくるんだよ。呉々も変な人について行ったり、事故に遭わないようにね。」
「わかってるよ。いってきます。」
「千佳、待って。」
チュッ、と唇にキスされる。
雅治さんのキスは優しくて甘い。
おはよう、いってらっしゃい、いってきます、おやすみ。
一日で最低でも四回はキスをすることが僕たちの習慣だ。
優しく笑う雅治さんに手を振って、僕は大学へ向かった。
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