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第15話 僕と合宿最終日

合宿最終日、安曇は部屋で荷物整理をしながら昨晩の出来事を何度も思い出しては赤面していた。 (思い出すだけで恥ずかしい…) 拓真にキスされた時は驚いたが、あの後安曇からも軽くして逃げるように部屋に戻ったのだが、興奮してあまり寝付けなかった。 拓真に内緒で寝てる間にキスしたことは何度かあったが、拓真からされたことなどない。柔らかい唇の感触を思い出してまた顔に熱を帯びる。 「ダメだ…顔がニヤける…」 好きだともう一度言われた事も嬉しいし、キスされたことも嬉しい、何より嬉しいのは両思いだと言うこと。自然と口元が緩んでしまう。頬を両手で引っ張り顔の緩みを正すと目の前の作業を手早く済ませる。 午前中にはバスに乗り込み午後すぎには学校に到着する予定だ。自分の荷物以外にも部活で使う備品のチェックをしなければいけないため気を引き締め直す。 正直昨日の事で頭がいっぱいだが、マネージャーの仕事を全うするために他の部員より少し早く荷物を持って部屋を出ていく。 洗面所で顔を洗いタオルで顔を拭いた後、目の前の鏡で自分の顔を確認する。眉間にシワを寄せ随分なしかめっ面になっている。こうでもしていないと変なニヤけ顔になってしまうため仕方がないのだ。 ふと昨晩の出来事を思い出す。安曇に好きだと言われた声がいつまでも耳に残っている。大胆なことにキスまでされてしまった。薄暗いためハッキリとした表情はわからないが、安曇のことだ顔が真っ赤になって目が潤んでいたに違いないと拓真は思っていた。 (今度は明るいところでみたい…) タオルを首にかけて深呼吸してから洗面所から出る。まだ他の部員達には悟られたくないと平静を装う。しかし、昨日の安曇の告白が耳にチラつき拓真のしかめっ面を緩ませる。 (落ち着け俺…まだ気持ちを伝え合っただけだ。付き合うとは言ってない…ん?) はたと気が付きその場に立ち止まる。好きとは言ったが、付き合おうとは言ってない。こうゆう場合、恋人とは言わないのではないかと気がつく。 (あれ?今どうゆう関係になってるんだ?) 部屋の真ん中で突っ立っている拓真に同室の部員達が首を傾げて見ている。 「拓真どうしたんだ?」 「さぁ?」 拓真のことが気になりつつも荷物の整理を進める。 (好きだけど付き合うのは嫌とかあんのか?) 一気に不安が広がりしかめっ面に拍車がかかる。その様子に部員達は声をかけようか迷っていると荷物を持った西川が拓真に近付き背中を叩く 「おい、拓真。何やってんだ?顔すげーこえーな」 「あ?あー…そうか?」 いきなり西川に声をかけられハッと考えてたことを打ち切ると、自分の荷物のところでしゃがみこみ帰り支度を始める。 「よし」 備品をバスに積み終わると一足先にバスに乗り込みどの席に座ろうか考える。 「来る時は1番前だったから真ん中辺りにしようかな」 皆が来る前に席を選べるのはマネージャーの特権か、安曇は少し嬉しそうに真ん中辺りの席の窓側に座る。 窓からゾロゾロと他の部員達がやって来て荷物を預けるとどんどんと乗ってくる。 「マネージャーおはよう」 「おはよー」 後ろの席へと移動しながら、安曇を見付けると挨拶をする部員達。何となく拓真達はまだかなと探してしまう。窓からゾロゾロやってくる部員の中から目当ての人物を見付けると、昨夜の事がフラッシュバックして頬を赤く染める。 (ぅ……ダメだ。まともに見られない…っ) あまり見ないようにポケットから携帯を取り出し気を落ち着かせることに。すると、隣にドサッと人が座る気配がしてそちらに顔を向けると拓真の姿。 「おはよう安曇」 「お…おはよ」 隣に座ってきた事に驚いていると前の座席から西川が顔を出す 「おはようマネージャー」 「おはよ西川くん」 「拓真の顔、朝から怖くてさ。マネージャー何とかしといてよ」 西川の言葉に隣の拓真の顔をちらりと見ると、確かに眉間にシワを寄せて不機嫌そうな顔をしている。 「うるせー西川」 「おーこわ」 西川が前の座席に座り見えなくなると拓真は隣の安曇に目を向ける。 「大丈夫、機嫌悪いわけじゃないから」 「そうは見えないけど…」 機嫌は悪くない。むしろ隣に好きな人が座ってるのだからいいに決まっている。感情が顔から漏れ出ないように必死に耐えているのだ。 (他のやつが座る前に隣キープ出来て良かった…) そんな拓真の心配をよそに安曇は不機嫌そうな拓真を心配そうに見つめる。 「もしかして…昨日の事?ヤダった?」 「は?」 頬を赤くして少し小さめの声で拓真に告げると恥ずかしさで俯き、手に持っていた携帯をじっと見つめる。 「そんなわけないだろ」 むしろ、もっと色々したくなったし夜中耐えるのが大変だった。今も隙あらば触りたい衝動に駆られている。とそんな事は他の部員が大勢いるバスの中では言えないが、拓真は安曇の耳に顔を近付けると皆に聞こえないように小さな声で告げる。 「安曇が可愛いすぎるから顔に出ないように耐えてるだけ」 「はぁ?!」 思ったより大きな声で驚いてしまうが、恥ずかしさのあまり安曇は耳まで真っ赤にして両手で顔を覆う その様子を見て拓真の顔はついつい緩んでしまうが、いけないと頬をつねって顔の緩みを消すとまた眉間にシワを作って耐える。 部員が全員揃うとバスが動き出し安曇は顔を上げて外の様子を眺める。顔の熱を冷まそうと手で仰ぎながら山間にある合宿場が遠くなって行くのを見つめる (部活暫くないし、拓真にあんまり会えなくなるなぁ…) 少し寂しくなり隣に座る拓真をチラリと見るとまだ眉間にシワを寄せて機嫌悪そうな顔をしており、安曇は無防備に膝に乗っていた手の小指を軽く握ってみる。ちょっとした悪戯心だ。 すると、拓真が驚いた顔を即座に安曇に向け握られてる指をチラリとみて、頬を少し赤く染めてから自分の小指を安曇の小指に絡ませ、不機嫌そうな顔のままそっぽを向いてしまう。 拓真の反応と絡まった小指をみて安曇は嬉しそうに微笑む。寂しかった気持ちはあっという間に塗り替えられてしまったのだった。

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