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第14話 僕と薄暗い部屋

その日の夜、食事も風呂も終えた自由時間。安曇は拓真がいる部屋の近くでウロウロしていた。 「どうやって切り出そう…」 昨日の返事を言いに来たとは他の部員がいるのに恥ずかしくて勿論言えない。かといって他に話す話題も見つからない。自分から拓真を呼び出す事なんてほとんどなく用がある時だけ。それも部活関係が多く連絡事項ばかり。 「どうしよう…」 持っていた携帯の画面を見つめ考えていると、後ろから風呂上がりの西川がやってくる。 「あれ?マネージャー?こんなとこで何してんの?」 「え?あー…散歩…かな?」 少し慌てた様子の安曇の態度に西川は、昼間の拓真の様子を思い出し察したのか安曇の手首を掴む 「散歩か。じゃあ俺達が寝てる部屋にも散歩に来なよ」 「え?え?」 西川に手首を引っ張られあっという間に拓真がいる部屋の前まで来てしまう。 西川は部屋の扉を開けると安曇を先に部屋の中へと押し込み扉を閉める 「おーい、お客さん連れて来たぞ」 安曇が戸惑っていると西川が部屋にいた部員に向けて声を掛ける。その中には窓際で携帯をいじっていた拓真も含まれており、声に気がつくと顔を上げて安曇と目が合う。 「……」 安曇が拓真の視線に照れて俯くと拓真も何だか気恥ずかしくなり顔を窓の外へと逸らす。 「マネージャー、トランプと枕投げどっちやりたい?」 西川に声をかけられ安曇はハッとしたように顔を上げて問いかけに対して少し考える。 「枕投げでしょ」 「断然枕投げ」 他の部員が横から自分の枕を手に持ちながら安曇に訴えかける。その様子に自然と笑みが零れ笑ってしまう。 「ふふっ…じゃあ、枕投げで」 「やった!」 「じゃあ俺、もう少し人呼んでくる」 部員の1人が部屋から出て行くのを見送ると、安曇は近くにあった枕を手に取り小さく息を吐いてから拓真に向かって投げ付ける 「おりゃあ!」 「うおっ!」 柔らかい枕が拓真の身体に当たると驚いた顔で安曇の方へと顔を向け、安曇は不意をつけたことが少し嬉しくなり笑みを浮かべる。 「拓真もやろうよ」 持っていた携帯をポケットにしまうと枕を拾い立ち上がって安曇に向かって枕を投げ返す。 「やる」 安曇がそれをキャッチし満足そうに笑っていると、部屋の入口には呼ばれてやってきた部員達がゾロゾロと入ってくる。 6人部屋はあっという間に人だらけになり、部屋からそれぞれ持ってきた枕でいっぱいになってしまう。 早速ジャンケンでチームを分け、窓際と壁側に分かれると枕を手に持ち一斉に投げ始める。 「えい!」 安曇が楽しそうに枕を投げている姿を拓真は横目で見ていたが、西川からの攻撃が顔面ヒットしそちらを睨む 「よそ見してんなよ拓真」 「うるせー!」 枕を拾い西川に向かって勢いよく投げ付けると受け止めた西川がニヤニヤ笑い拓真を見ている。さも何か言いたげなその表情に拓真はイラッとして足元の枕を拾い上げると西川に思いっきり投げ付けた。 枕投げも暫く続けていると疲れて座り込む者が出てきて安曇も窓際に座って休んでいた。残っているのは拓真と西川だけ。二人とも肩で息をして片手に枕を持ちながら睨み合っている。 すると、入口付近に座り込んでいた部員の1人が廊下から声が聞こえるのを不思議に思いドア越しに耳をすませる。 聞こえてきた声は監督の声でそろそろ消灯なので様子を見に来たようだ。 「どうした?」 「ヤバイ、監督が見回りに来た!」 監督という言葉に部屋にいる全員が一斉に枕を片手に動き出す。拓真と西川も押し入れから布団を取り出すと床に急いで敷き、この部屋でないものは隠れたり窓を開けて外へと出ていく。 その様子に安曇はあたふたして慌てていると、拓真に後ろから抱き上げられ布団が無くなって空いた押し入れに拓真と一緒に隠れる。 「拓真は隠れなくても…」 「しっ」 隠れたと同時に入口が開く音がして監督が入ってきたのだとわかり安曇は思わず手で口を塞ぐ 「そろそろ消灯だぞ。全員いるか?」 「はーい、いまーす」 「その布団で寝てんのは?」 「拓真ですよ。なんか腹が痛いみたいで先に寝ました」 「そうか、お前らも早く寝ろよ」 薄暗い押し入れの中で息を殺すようにして外の様子に耳をすませていたが、監督が無事帰ったのだと分かると隠れていた部員達が出てきたのか話し声が聞こえてくる。 安曇はほっとして口から手を離して後ろにいる拓真に話しかけようと顔を向けたところで後ろから抱きしめられてしまう。 (え?え?何??) 突然の出来事で安曇が固まっていると自分の肩口に拓真が顔を埋めて小さく呟く。 「悪い…少しだけこのままで」 抱きしめられたことで背中と肩に拓真の体温を感じて、安曇の心臓は破裂寸前まで高鳴り煩いくらいの音が聞こえる。 (心臓が口から出そう…) 押し入れの外では他の部員が楽しそうに会話をしている声が聞こえてくる。誰かに押し入れを開けられるかもしれない状態のまま、この体勢を見られたらなんて説明すればいいのか分からない。安曇の感情はグルグルと渦巻いて混乱していた。頬に軽く当たる拓真の少し硬めの髪からはシャンプーの良い香りが漂ってくる。安曇はいつも以上に緊張しているのが自分でもわかった。 (少しって言ったけど…離したくねぇな) 近くに安曇がいると手を出してしまうほど気持ちを押し殺すことが出来なくなってしまった拓真。 いつだって触れたいと思っていたし、たくさん話したい。今まで安曇を独り占めしたいという欲を抑えてきたが、好きだと伝えてしまってからはどこか吹っ切れてしまった。 「好きだよ、安曇」 心の声すら口に出してしまうのは、もうこんな事すら言えなくなるかもしれないとどこかで思っているせいなのかもしれないと拓真は思う。 安曇の反応が気になるが薄暗くていまいちよく分からない。あまり長く抱き締めてるのは良くないと思い名残惜しそうに安曇から離れる。 「そろそろ出るか」 早いとこ安曇から離れないとまた抱き締めてしまいそうなので手を伸ばして扉を開けようとするが、安曇が身体をこちらに向けたと分かった時には抱き締められていた。 首に腕を回され安曇の顔をすぐ近くに感じる。 「…僕も…拓真の事好きだよ」 拓真の耳に安曇の吐息がかかった。小さくて少し震えている声。言われた言葉を理解するのに少し間があったが、安曇が少し身体を離し照れた表情で拓真を見つめているのがわかると再度、安曇の腰あたりを抱きしめ柔らかそうな唇に触れるだけのキスをした。

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