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第1話 一杯目(1)

 家から車なら十分、自転車なら近道使ってニ十分。歩くと一時間近くかかる、国道沿いにできたショッピングモール。そこが俺、上原 征一郎が働く職場だ。  営業時間の長いゲームセンターが併設されてることもあり、正月休みが明けるまでは、遅い時間までガキどもがいて騒々しかった。休みが終われば、ガキどもは減ったけれど、ガキじゃなくても騒々しい輩はけっこういる。それでも、さすがに平日の夜中の三時にもなると、ほとんどいない。 「お疲れ様です~」  警備員が集まる防災センターに戻ってくると、先輩の高田さんが、防犯カメラの映像の映っているテレビ画面を見ながら、缶コーヒーを飲んでいた。俺の親父が生きていれば、きっと高田さんくらいだろう。 「おう、上原、お帰り」  画面から目を離さずに、高田さんが声をかけてきた。俺は、空いていたパイプ椅子に座って、帽子を脱ぐ。被りっぱなしだから、普段はツンツンと立っている茶色の短髪もへたってしまっている。 「やっぱ、防災センターの中、あったかーい」 「西山はどうした?」 「トイレ寄ってます」  夜間の巡回は二人で回るんだけれど、防災センターに入る前に、西山さんはトイレに寄ってくると言って別れた。西山さんは俺よりも三つ年上のニ十五歳。俺みたいな小柄なのと違って、まさに柔道部の重量級、という感じ。いかつそうに見えるけれど、猫好きでけっこうカワイイところのある人だ。俺も猫好きだから、休憩中は猫の話ばかりしている。  ショッピングモールのスタッフオンリーの通路は、薄暗い電気がかなり広い間隔で置かれているのと、動いている人に反応して点灯するタイプ。だから、巡回で戻ってくるときは、人が通っていないから、薄暗かったりする。ここで警備員のバイトをするようになって、半年近くなるけれど、いまだに慣れなくて、時々、ビクッとしてしまう。それを先輩たちに見つけられては、揶揄われてしまうのが、毎回、悔しかったりする。今日は運よく、誰にも見られなかった。  俺の勤務時間は夜の九時半から、ショッピングモールのオープン直前の九時半まで。冬場の夜中に自転車で向かうのは、かなり寒くてキツイけど、この辺の時給の相場ではかなりいい方なのと、家から通えるのもあって、ここでバイトを続けてる。雨の日の夜は、仕事から帰ってきた母さんが軽自動車を出してくれるけれど、できるだけ母さんに面倒はかけたくない、と思う俺。 「ううー。さみー!」  大きな体を寒そうに丸めて、西山さんがドアを開けて入ってきた。 「お疲れ。ほれ。上原、西山、缶コーヒー。もう温くなってるかもしんねぇけど」  部屋の奥の仮眠室から現れた安西さん。いつの間に買ってきたのか、缶コーヒーを二本、俺たちの方に差し出した。安西さんも西山さんみたいに身体の大きい人だけど、眼鏡をかけてるせいか、少し優しい感じの人だ。小さいお子さんが二人いるパパさんだからかもしれない。 「え、いいんですか?」 「おお。高田さんのおごり」 「ありがとうございますっ」  俺と西山さんが大喜びで缶コーヒーを受け取る。確かに、もう熱々ではないけれど、手の中の温もりはありがたい。 「早く飲め。じゃあ、安西、行くか」 「はい」 「いってらっしゃい」  二人が防災センターを出ていくと、俺と西山さんは交代で小一時間ほど仮眠をとるのがいつものこと。西山さんのほうが先に仕事があがることもあって、先に休んでもらい、俺は防犯カメラをチラチラみながら、報告書を書き始めた。

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