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第10話 二杯目(6)

 昼の勤務三日目、最終日。夜間もそれなりに大変だと思っていたけれど、こうして昼を経験してみると、昼は昼で気を遣うところが多くて、なかなか大変だったな、と朝からもう終わりのことを考えてる。  今日は木村さんがお休みということで、今日初めて会った小松原さんという、木村さんよりも少し年上の人が一緒になった。正直、眼鏡をかけた大きくて暗い人、ということくらいしか、頭に残らないという、印象の薄い人だった。  今日の巡回は、昨日とは逆の西側のほう。カフェのあるほうに行けないのは、少し残念……?いやいや、関係ないし。これは仕事だし。俺はクリップボードを抱えると、フロアに出たところで小笠原さんに会釈して巡回に向かった。  三日目ともなれば慣れたもので、スイスイと確認作業を終えて巡回もあっという間。昨日よりも早い時間に戻って来れたことに、自分でも少し満足する。   「上原くん、飯、行ってこいや」  小松原さんはまだ戻ってきてないようだったけれど、今日は愛妻弁当持参の手塚さんが、テーブルに見事なそれを広げていた。   「あ、はい。じゃあ、行ってきます」  俺は制服のスラックスのポケットの中の財布を確認すると、防災センターを出る。  今日は時間が少し早いせいか、昨日来た時よりも社食の人が少ないようだ。 「今日は……あ、Bセット、かつ丼じゃん」  俺は躊躇なく、Bセットを選ぶ。食堂のおばちゃんに食券を渡すと、思いのほか大盛な丼にホクホクな俺。それを受け取ると、周囲を見渡し、空いている席を探した。奥のほうのテーブルが誰も座っていないようだったので、俺はそこに向かった。  ここ三日、昼間の勤務のせいで、夕食の買出しに行けていない俺。やっぱり慣れていない仕事のせいか、仕事帰りに買い物していく余力が残ってなくて、家についても疲れて動くのが面倒になってしまっていた。母さんも、ここのところ残業が続いているせいか、弁当を買って帰ってきてる。征史郎もバスケ部の活動が忙しいみたいだし、俺や母さんみたいに料理ができるわけでもない。やっぱり、家のことを考えると、夜の勤務のほうが安心だ。今日は最終日で明日は休みだから、せっかくだから、何か旨い物でも買って帰ろうか、なんて考えていると、目の前に誰かが立った。 「ここ、いいかな」  柔らかい低い声が聞こえてきた。昨日、一昨日と聞いてきた声だから、誰かなんて俺でもわかる。かつ丼に向けられていた視線を上げると、そこには、相変わらずイケメンハーフ、ホワイトさんがトレーを持って立っていた。 「こんにちは。ホワイトさん、どうぞ」  にこやかに微笑んでいるホワイトさんは、今日は俺とは違う、Aランチの焼き魚定食を手にしていた。

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