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第22話 四杯目(4)

 確か彼女は、大学三年の時に週に一回、同じ講義に出ていただけの女の子だ。  なぜか同じグループになって、短期間だけど一緒にグループ発表的なことをやった。ほとんど俺が調べたのに、彼女がメインで発表したんだった。まるで自分が頑張りました、みたいな感じで、一緒にいた男たちもチヤホヤしてたっけ、というのまで思い出してしまった。  基本、かわいい女子は嫌いではない。しかし、それは中身も伴ってこそのかわいい女子だ。どこか小狡い女ってのは、顔立ちにも出てくると、俺は思う。あの時も、こんな風にかわい子ぶってたなぁ、と、なんだか嫌な印象しかない。  女子が少ない講義だったこともあって、彼女はそこそこ人気があった覚えがある。今思えば、なんで俺なんかを誘ったのか、不思議で仕方がない。そういえば、あいつらは、あの時いたやつらなんだろうか?すでに二月に入っているというのに、大学四年の彼女たちが、どうしてここにいるんだろう。まぁ、彼らがどうなろうが、俺にはどうでもいいけど。 「まぁね」  彼女に今の状況を詳しく話す気にはなれず、さらっと肯定だけはする。実際にはバイトの立場だし、大学自体、休学中の俺が就職なんかできるはずもない。そもそも、週一しか一緒にならなかった彼女が、よく俺の名前なんか覚えてたな、と不思議に思いながら、俺はピザパンにかじりついた。 「やっぱり、さすが上原くん。そういえば高田教授がね……」  何がさすがなのか、わけわからん。その後も彼女は何やら色々話しかけてきていたが、右から左へと聞き流し、俺は生返事を返しながらピザパンをもそもそと咀嚼する。出来立てだったはずなのに、もうチーズが冷えて固まりだしている。一気に美味さが激減だ。  このまま、こいつらと話をしてると、ホットミルクの美味さすらも味わえなくなる。さっさと食い終えて、ここから逃げるに限る。俺の中のもう一人の俺が囁くんだ。早いところ逃げろって。  ピザパンを食い終えると、後は残ってたホットミルクを飲み干すだけだ。ああ、本当に、残念だ。せっかく、ハチミツのまろやかな甘みを、美味しく味わうつもりだったのに。 「ナミちゃん、お待たせ~」  男たちは俺のほうを見もせずに、彼女の頼んだカフェオレとサンドイッチが乗ったトレーと、自分たちの飲み物を持ってきた。二人とも番号札を持ってきている。何か食べ物も注文したのだろう。 「ありがとう」  笑顔を浮かべた『ナミちゃん』は、トレーを受け取る。その笑顔が胡散臭く見えるのは、俺だけなんだろう。男どもはそんな『ナミちゃん』に嬉しそうな笑いを浮かべながら隣のテーブルの席に座った。  こいつらのツレにだけは見られたくないなぁ、と思いつつ、マグカップを手にしてフッとカウンターの方に目を向けた。 「えっ?」  つい、驚きが声に出てしまったのは、なぜだか久しぶりに見る姿があったせい。  いつもショッピングモールの店で見る姿と同じ格好のホワイトさんがいたからだ。

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