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第21話 四杯目(3)
その声には、なんとなく聞き覚えがあった。本当に、なんとなくだが。俺はホットミルクのカップを口にしたまま、視線をあげる。そこには女の子一人と男二人の三人組が目の前に立っていた。
「なんか、久しぶり~」
そう声をかけてきたのは、やっぱり女の子の方。ちょっと大きめできつい感じのつり目に、茶色いショートボブ。ハーフコートに短めのスカート。けっこう寒いと思うのに生足にブーツという格好に、俺の方が寒い気がしてしまう。
誰だっけかなぁ、と考えている間に、その子は断りもせずにいきなり目の前の席に座った。
連れの男たち二人とも、そこそこセンスの良さげな格好をしている。こいつらと並ぶと、俺なんかダサくて霞んでしまう気がする。そう思ったら、若干凹んだ。
訝し気に見ていると、男の一人のほうは俺のほうをチラッと見たけど、すぐに目を逸らしてカウンターの上の方に掲げられてるメニューのほうに目を向けてる。もう一人の男は隣の空いている席に荷物を置きだした。
え、まさか、このままここに座るつもりかよ。他にも席、空いてるだろうが。てか、お前らも誰だよ。全然記憶にないんだけど。
「最近、見かけないなぁって思ってたんだけど、どうしてたの?」
両肘をテーブルにつけて、顔を掌にのせて、俺を上目遣いに見つめてくる。彼女なりに可愛い顔をして問いかけているのかもしれないが、正直、こういう図々しいのって、好きじゃない。そんな彼女に、俺があっけにとられていると、メニューを見ている男のほうが彼女に声をかけてきた。
「ナミちゃん、何頼む?」
「んと、カフェオレお願い。あと、サンドイッチ」
「おけー」
俺の方を見もせずに、彼らはさっさと注文しにレジに向かっていく。こいつら、ここでそのままランチってことだろうか。せっかく、のんびりホットミルクを味わうつもりでいたのに、なんか予定が狂ってきた。
「上原くんは就職決まった?」
小首を傾げながら、どこか期待を込めたような眼差しで言う彼女の声と顔つき。
俺は不意に思い出した。それも、あんまりいい思い出ではない。自然と口元が歪みそうになるのを、俺はなんとか抑え込んだ。
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