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第20話 四杯目(2)
そして俺は、かなり久しぶりに休学している大学近くのカフェ・ボニータに向かっている。せっかくの休みだからこそ、のんびりしたいところなんだけれど、昨日からどうにも頭からホットミルクが離れない。自分でも馬鹿みたいだと思うけど、どうしても飲みたいのだ。
大学はうちから電車で一時間ほど。通学してた時は、一限目に出るために朝早い電車に乗っての移動で、朝から死にかけながら通ってたのを思い出す。
通勤ラッシュの時間の終わった時間のせいか、座ることもできた俺は、うつらうつらしながら電車に揺られているうちに、乗り換えの駅に着いた。久しぶりの人ごみに辟易しながらも、頭の中はホットミルクのことばっか考えつつ、大学のある駅に向かう電車に乗り込んだ。
十五分ほどもすれば、目的の駅には到着する。ラッシュ時でもないけれど、やっぱり地元に比べたら、たくさんの人、人、人。久しぶりに来たせいなのか、なんだか目がまわりそうだ。こんな俺が、いつか再び大学に戻れるんだろうか、と、一瞬、心配になった。
目的地であるカフェ・ボニータは大学の裏手の通りにひっそりと建っている。ショッピングモールにある店と比べると、初期の頃の店構えのせいか、ちょっとばかり地味な感じはいなめない。
大学の近くなので客層は若いけれど、お昼前のおかげで、まだそれほど混んでいないのは助かった。レジの列に並びながら、メニューを見つめる。ホットミルクは譲れない。しかし、これに何があう?餡バタートースト?でも、お昼だし。
「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか」
笑顔を浮かべながらメニューを差し出す女の子。俺はザーッとメニューを流すように見ると、ピザパンの写真に目が留まった。パンの厚さもさることながら、とろけたチーズが流れている画像に、食欲が刺激された。もう、これしかない。
「えと、ホットミルクとピザパンお願いします」
俺は番号札だけを渡されると、キョロキョロと空いている席を探す。そこそこ広い店内、でも番号札を呼ばれることを考えると、提供台の近くがよさそうだ。俺は二人用の小さなテーブルに向かった。
携帯をいじっていると、ほどなく番号を呼ばれた。俺はウキウキしながらカウンターに向かい、トレーにのっているホットミルクとピザパンを受け取った。自然と笑みが浮かぶのは許してほしい。自分の席に向かう間、ふんわりと優しい甘さの香りを味わいながら、チーズの匂いと喧嘩してることにも気づいてしまった。まぁ、今、俺が食べたいモノなんだもの、仕方がないよな。
「いただきまーす」
両手を合わせながらそう言うと、俺は最初に、ホットミルクに口をつける。うん、甘い。ほのかなハチミツの甘みに、気持ちがホッとする。うちでも作れるとは思うけど、こういうのは人に作ってもらったもののほうが美味く感じる。だけど、忙しくしている母さんや、部活で疲れて帰ってくる征史郎には頼めない。
「ほ~っ」
気が緩んで、つい、大きなため息が出るのも、許してほしい。ホットミルクのせいで、ほけ~っとしていた俺は、あんまり周囲のことを気にしていなかった。
「あれ?もしかして、上原くん?」
突然、少し甲高い感じの女の子の声が俺の名前を呼んだ。
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