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第25話 閑話:ホワイトさんの甘いため息(1)

 明日から立花さんが本店に店長研修に行くことになっていたのに、タイミング悪く、別の店の店長が盲腸で入院したという連絡がきた。本来なら副店長が仕切るところなのだが、つくづく運がないというか、産休に入ってしまってるという。他の店舗からの応援も考えてみたものの、人事から人手が足りないという話を聞いてるだけに、自由に動けるメンバーがいないのは、オーナーの私、ルーカス・恭介・ホワイトでもわかっている。 「ホワイトさん、私、店長研修、来月以降でもいいですよ?」 「いや、そういう訳にもいかない」  店長研修は月に一回、一週間だけ弟のセオドアが店長をしている本店で行うことになっている。その研修を三回経験した者が、店長候補になる仕組みだ。副店長である立花さんは、今度の研修で三回目。これがクリアしたら、次の新店での店長候補になる。まだ先ではあるものの、新店の予定は決まっていることもあり、立花さんには早めに研修をしてきてほしいのだ。  私はスタッフルームの中でパソコンの画面のシフト状況を睨みながら、どうしたものかと考えていた。 「佐藤さん、来週一週間、私がいなくても大丈夫かな」  ショッピングモールの中にあるこの店は、場所柄なのか、学生のバイトよりも主婦の方々のパートが多い。運よく、経験者も多いおかげで、開店して一年ちょっとではあるものの比較的うまく回ってる。立花さんの次にパート歴の長い佐藤さんは、ちょっと考えた様子だったが、ニッと笑って答えた。 「まぁ、なんとかなるんじゃないですか。これが春休みの時期とかだと厳しいですけど」  ちょうど閑散期ということもあり、客足もそれほどでもない。新人のバイトがいるわけでもない。 「じゃぁ、申し訳ないけど佐藤さん中心で一週間、なんとか乗り切ってください」 「まかせてくださいよ」  肝っ玉母さんのような佐藤さんに、内心、ホッとした。

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