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virgin suicide :貴方が残してくれたもの6

*** 「ミズノン、デカ長がさっきから呼んでるよ。早くしないと雷、どっかーんって落とされるかも」   (――おいおい、トイレに行く暇も与えないってか!?) 「すみませんっ! 今、向かいます」  山上先輩が亡くなってから、あっという間に1年が経過した。俺に余計なことを考えさせる暇を与えないくらい、デカ長は毎日派手にコキ使ってくれている。正直、ありがたいと言えば、ありがたいのだが。 「たまには、ゆっくりしたいよね」  月命日の墓参りくらい、させて欲しいんですが。なぁんてこの間、おねだりをしてみたら。 『死んだ人間よりも、被疑者確保の方が優先順位、超高いんだ。それもわからんのか、このバカ水野はっ!』    垂れた目をキッと引き上げて、俺を睨むデカ長。最近なんかこれに変人だの変態だの、いろんなネーミングまで付けて、俺をかわいがる始末。    ま、否定はしないけどさ……。 「ぼやぼやするなっ! 三課から応援要請きたから、これから俺と出るぞ。コンビニ強盗が、立て続けに起こったそうだ。ローラー作戦で、しらみ潰しに行くからって。すぐに準備しろ、バカ水野」 「わかりました。すぐに出れますよデカ長」  俺がいつも通りの返答してるのに、 「……なんだろう。すごぉくイヤな予感がするわ。水野、ヘマしたら承知しないぞ!」 「わかってますよ。心配性だなデカ長は」    笑ってる俺に、心底イヤそうな顔をする。    デカ長が長年培った刑事の勘がこのあと当たろうとは、俺はまったく知るよしもなかった。  ――忘れかけていた恋心が、再燃する出逢いがあるなんて。  おわり  このあと、山上の高校時代のお話を連載していきます。 ※【恋を奏でる爪音】では現代から平安時代にタイムスリップして、関さん目線で水野と山上の恋愛を描いております。

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