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Imitation Black:堕ちた瞬間2

 そしてこの衝撃的な出会いから半年後、もっと衝撃的な場面に出くわした。    それは日直で次の授業に使う物を、備品室へ取りに行ったら―― 「山上、俺と付き合ってくれないか?」  という台詞が、耳に聞こえてきたのだ。    俺は慌てて息をのむ。他人ごとなのに、体が勝手に緊張した。  適度に往来のある備品室前で、何やってんだと呆れながら、山上に告白した相手をしっかりと確認すべく、こっそりと壁際から確認してみる。    山上は予想通り、べらぼうにモテていたので告白の一つや二つくらいじゃ、驚かなくなっていたけれど、まさか目の前で告白するところを目撃するとは――    あの魅惑的な瞳に見つめられて煽られたのは、自分だけじゃないことにちょっぴり、ほっとしていた。    てか授業に遅れちゃうから、さっさと終わらせて欲しい。 「何、寝ぼけたことを言ってるんですか先輩。受験生なんだから、僕にうつつを抜かしてる場合じゃないでしょう?」  相手は三年か。山上の人気は、やっぱりすごいや。しかも上級生相手に、辛辣な言葉を吐くのもすごい。    ――俺には到底無理な話。あの妙に整った顔でズバッて言われると、痛み倍増だろう。やれやれ、ご愁傷さま……  壁にもたれかかりながら、ふたりのやり取りが早く終わらないかなぁと待っていた。    俯いて、ため息一つついたところで、山上が角から出て来て、俺の姿にハッとする。 「もしかして、備品室に用事だった? ごめん、待たせてしまって」  長い睫毛を伏せて、済まなそうに謝る山上の背後を三年生は、逃げる様にその場を後にした。    思わず、憐みの視線を送ってしまう。 「そんなに待ってないから大丈夫だ。こっちこそ、立ち聞きしたみたいで悪かった」 「何か僕たち、会うたびに謝ってばかりだな」  先程とは一転、カラカラと可笑しそうに笑いだす、山上の笑顔が眩しかった。  俺が告白しても同じように、無表情で断るんだろう。きっと、そうに違いない。    刹那さをきゅっと噛みしめながら同じように笑って、俺たちは別れたのだった。

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