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Scarface:貴方を守るために4
***
数日後、警察側の内通者の情報で、せせらぎ公園に来ていた。今日ふたり揃って、外に捜査へ出るらしい。そこを狙い撃ちする作戦になった。
拳以外で、初めて人を傷付ける――それだけで異常に体が緊張した。上着の内ポケットにしまってある拳銃が、やけにずしりと重く感じる。
俺は深呼吸をしつつ、ふたりが通るであろう歩道脇にある草むらに、ひっそりと身を沈めた。
そこに後方、百メートルくらいだろうか。目線を合わせながら、仲睦まじそうに歩いてくる、長身のふたり組が目に留まった。それは写真で見た、山上とその相棒の姿だった。
何かを話しかける山上に対し、むくれたような顔をする相棒。その姿に、思わず俯いてしまった。なんとなく、自分と昴さんを重ねてしまって――。
(このふたりの仲をもしかしたら、自分の撃つ一発で裂くことになるかもしれない)
そう思ったら緊張して、手に汗をかいた。そんな緊張感を振り払うように、頭をふるふると横に振って、気持ちを入れ替えながら、ふたりの様子を伺ってみる。
すぐ傍で立ち止まり、公園内を懐かしそうに見つめて、熱心になにかを話し込んでいた。そんなふたりを観察しつつ、仲間に最終連絡をする。
「あ、もしもし俺。あのさ確認なんだけど――色が白くて細い方を、殺ればいいんだよな?」
ド素人の俺が拳銃を使う。どこに当たるかわからないので、しっかりとターゲットの確認をした。
逃走車で待ってる仲間が肯定したので、思いきって草むらから出ると、俺の姿を見たふたりは固まって、じっと俺の手元を見つめた。草むらから出た瞬間に、胸倉から出した拳銃が、ふたりのことを固まらせたんだろう。
細いヤツが足の向きを変えた瞬間、その動きよりも早く、山上がソイツの体に覆いかぶさるように抱きしめた。狙いを定めていた俺は、迷うことなく目の前にある大きな背中へと、鉛の玉を打ち込む。練習の時同様に、体に衝撃がズシンと走った。
その衝撃をまともに食らった山上の体が、一瞬震えたように見えた。
その後、安堵のため息をついて、ふらつきながら相棒を手放した山上が、俺をギロリと睨む。その眼差しが、すごく恐ろしいものだった。
好きな相手を傷付けようとした俺に、全身全霊で敵意をむき出しにする様子に、体がガチガチと震える。そのせいで狙いが定まらず、手元が危うくなるばかりだった。
一瞬目をつぶって、昴さんの言葉を必死に思い出す。
(……足の裏を地面に這わせること。脇をしっかり締めて、狙いが狂わないように両手で銃を持ち、相手から絶対に目をそらさないこと――)
そして俺は、ゆっくりと目を開けた。
「誰に断って、水野にチャカ向けてんだよ。コイツを殺っていいのは、僕だけなんだっ!」
怒りに目を血走らせて銃を向けてる俺に、迷うことなく突進してくる山上。
「ダメッ! 山上先輩っ!」
相棒の声に被さるように、静かに二度発砲した。手折られた花のように、山上の体がその場に崩れ落ちる。
――殺ってしまった、昴さんが好きだった男を――三発も使って、撃ってしまった。
「山上先輩っ! 山上先輩、しっかりして下さいっ!」
相棒が山上の傍に跪き、撃たれた箇所を確認する。
(俺なら怪我人を放っておいて、撃ったヤツに倍返しするのにな)
そう思いながら自分の視界からふたりを消すべく、その場から急いで逃げた。直視していられなかった。まるでこれからの自分の姿みたいで……。
直前までしあわせそうだったふたり。俺がもたらしたことによって、180度運命が変わってしまった。
――自分自身の運命までも――
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