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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい31

「やめろっ! 男娼出身のおまえに抱かれたら、僕は――」 「私に抱かれて、穢れてしまうのが怖いですか?」 「違う、そうじゃない。おまえは誰よりも快楽の方法を知ってるだろ。それに堕とされるのが怖いのと、アーサー卿以外の男に抱かれるのが嫌なんだ」 「…………」 「放せっ!」  両腕を掴んでいた、ベニーの手の力が緩められる。それに安心して、ほっとため息をついたローランドは起き上がろうとしたが、腰の横にあった両手が大きな手によって握りしめられ、ベッドに縫いつけられた。 「ンンっ!」  唐突に押しつけられた唇によって、起き上がりかけた躰が、すぐさまベッドに戻される。激しく出し挿れされるベニーの舌に、ゾワッとしたものを感じた。  目に映るベニーの顔は、いつもの見慣れたものではなかった。肩まで伸ばした長い髪を乱しながら、狙いすました野獣のような目で、ローランドを見つめる。 「ひっ…んあっ、くぅっ」  大きくなったベニーのモノがローランドの下半身に何度も当たり、その衝撃のせいで感じてしまった。 「ん、ふ、あぁ……」 「昨夜は一晩中、伯爵にイカされたのでないですか?」 「い、言うなっ」 「好きでもない男に感じさせられて、恥ずかしいのでしょ? 頬が赤く染まってます」 「それ以上なにも言うな、腰も動かすなっ!」  ベニーの腰にローランドは両足をぎゅっと巻きつけて、強制的に動きを止めた。 「そんなふうに押しつけられたら、伝わってくるじゃないですか。熱くて硬くなってる、ローランド様の大きくなった――」 「もうやめてくれ……」  ベニーから顔を背けたローランドは、巻きつけていた足をもとに戻し、抵抗することを諦めた。力なく横たわる主を目の前にして、ベニーは暗く沈んだ声で語りかける。 「自分の手によって、好きなお方を感じさせることができて、私は嬉しいんです。しかしながら抵抗されると、これ以上のことができません」  ベニーの赤茶色の瞳から涙がぽたぽた零れ落ち、ローランドの頬を濡らした。 「ベニー……」  背けていた顔を真正面にしたら、悲痛な表情をしたベニーが眉根を寄せて、ぶるりと躰を震わせる。 「私が好きになったお方は、いつも別の誰かを愛するんです」 「おまえはどうして、僕を好きになったんだ?」  ローランドからの問いかけを聞き、ベニーは握りしめていた両手をそっと放した。首をもたげたまま力なく躰の上から退くと、ベッドの脇に腰かけて、あからさまに距離をとる。 「ベニー、答えろ」  ローランドに背を向けたベニーは、いつまでたっても答えようとしなかった。  無言を貫く大きな背中を見ながらローランドは起き上がり、乱れた朱い髪を整える。視線を飛ばした先にある、自分以上に乱れた長い髪に、やわやわと右手を伸ばした。 「……せっかくの綺麗な長い髪が、台無しになってる」  絡んでいるところを解すように、手櫛で何度も髪を梳かすローランドを見ずに、ベニーは焦点の合わないぼんやりした話し方をする。 「貴方様を襲った私に、情けをかけるおつもりですか……」 「情けをかけるとか、そういうことじゃない。だっておまえは、僕の大切な執事だからだ」

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