102 / 123
抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい31
「やめろっ! 男娼出身のおまえに抱かれたら、僕は――」
「私に抱かれて、穢れてしまうのが怖いですか?」
「違う、そうじゃない。おまえは誰よりも快楽の方法を知ってるだろ。それに堕とされるのが怖いのと、アーサー卿以外の男に抱かれるのが嫌なんだ」
「…………」
「放せっ!」
両腕を掴んでいた、ベニーの手の力が緩められる。それに安心して、ほっとため息をついたローランドは起き上がろうとしたが、腰の横にあった両手が大きな手によって握りしめられ、ベッドに縫いつけられた。
「ンンっ!」
唐突に押しつけられた唇によって、起き上がりかけた躰が、すぐさまベッドに戻される。激しく出し挿れされるベニーの舌に、ゾワッとしたものを感じた。
目に映るベニーの顔は、いつもの見慣れたものではなかった。肩まで伸ばした長い髪を乱しながら、狙いすました野獣のような目で、ローランドを見つめる。
「ひっ…んあっ、くぅっ」
大きくなったベニーのモノがローランドの下半身に何度も当たり、その衝撃のせいで感じてしまった。
「ん、ふ、あぁ……」
「昨夜は一晩中、伯爵にイカされたのでないですか?」
「い、言うなっ」
「好きでもない男に感じさせられて、恥ずかしいのでしょ? 頬が赤く染まってます」
「それ以上なにも言うな、腰も動かすなっ!」
ベニーの腰にローランドは両足をぎゅっと巻きつけて、強制的に動きを止めた。
「そんなふうに押しつけられたら、伝わってくるじゃないですか。熱くて硬くなってる、ローランド様の大きくなった――」
「もうやめてくれ……」
ベニーから顔を背けたローランドは、巻きつけていた足をもとに戻し、抵抗することを諦めた。力なく横たわる主を目の前にして、ベニーは暗く沈んだ声で語りかける。
「自分の手によって、好きなお方を感じさせることができて、私は嬉しいんです。しかしながら抵抗されると、これ以上のことができません」
ベニーの赤茶色の瞳から涙がぽたぽた零れ落ち、ローランドの頬を濡らした。
「ベニー……」
背けていた顔を真正面にしたら、悲痛な表情をしたベニーが眉根を寄せて、ぶるりと躰を震わせる。
「私が好きになったお方は、いつも別の誰かを愛するんです」
「おまえはどうして、僕を好きになったんだ?」
ローランドからの問いかけを聞き、ベニーは握りしめていた両手をそっと放した。首をもたげたまま力なく躰の上から退くと、ベッドの脇に腰かけて、あからさまに距離をとる。
「ベニー、答えろ」
ローランドに背を向けたベニーは、いつまでたっても答えようとしなかった。
無言を貫く大きな背中を見ながらローランドは起き上がり、乱れた朱い髪を整える。視線を飛ばした先にある、自分以上に乱れた長い髪に、やわやわと右手を伸ばした。
「……せっかくの綺麗な長い髪が、台無しになってる」
絡んでいるところを解すように、手櫛で何度も髪を梳かすローランドを見ずに、ベニーは焦点の合わないぼんやりした話し方をする。
「貴方様を襲った私に、情けをかけるおつもりですか……」
「情けをかけるとか、そういうことじゃない。だっておまえは、僕の大切な執事だからだ」
ともだちにシェアしよう!