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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい45
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ローランドが屋敷に入ってすぐに、ベニーは両手につけていた白手袋を外していた。自身に与えられた別の仕事を、全うするために――。
一発目の銃声を聞いてから、光り輝く銀の銛(もり)を、左手に瞬時に浮かびあがらせる。先端部は、獲物に喰いこんで外れないような造りになっており、柄の部分には細くて長い赤い色の紐がぶら下がっていた。
両足を肩幅まで開きながら、左手で銛を握りしめつつ、右手は赤い紐を緩く保持して、投てきするタイミングを計る。
(やはり一発では、仕留められなかったのですね。伯爵との体格差が原因でしょうが、連射が可能なグロックなら、ローランド様でも扱えるはず――)
銃声のあとに、屋敷の壁から出てくるであろう、獲物の姿が見えなかったことで、中の様子をベニーなりに予測した。
次の銃声を聞き逃さぬように、瞳を閉じて集中力をあげる。
「ローランド様……」
主の成功を祈りながら、名前をそっと呟く。
その直後、くぐもった発砲音を耳でしっかり察知したのちに両目を見開きながら、左手に持っている銛をいつでも飛ばせるように、ぎゅっと握りしめた。
赤茶色の瞳を煌めくように赤く光らせて、獲物の動向を探っている最中に、ふたたび屋敷から銃声がした。壁からすり抜けるように出てきたオーブを目で捕らえた瞬間、ベニーは上半身を大きく捻りながら銛を放つ。
「汝、我の糧となるために、その魂を捧げたまえ!」
どこか遠くへ逃げようとしたオーブに向かって、狙いどおりにまっすぐ銛の先端が突き刺さるのを見て、柄についている赤い紐を、勢いよく引っ張った。
ビュッという空気を切る音とともに、銛が左手に戻ってくる。
「ベニーちゃん、それ食べるの?」
背後からかけられた聞き覚えのある声に反応して、ベニーはため息混じりに振り返った。
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